【あんスタ】NightTime-Parade!!【短編集】

Klarheit／乱凪砂 ページ34

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朝が来た。



目に痛い程の光が、網膜に染み渡る。暫くぼうっと、そのまま床に座り込んでいたけれど、これではいけないと自身の体に鞭を打つ。のろのろと立ち上がってカーテンを開き切り、窓を開けると、朝特有の生温い空気が入り込んできた。静寂、死んだような街並み。それらを照らす朝焼けは本当はきっととても美しいのだろうけど、まったく色付いて見えない無味乾燥なものに感じるのは、この体が消耗しきったがらくた(・・・・)だからなのだろうか。この瞳が役立たずのガラス玉のようなものだからであろうか。

外気はそれほど寒くない、むしろ先程生温いと形容したレベルであるのに、指先からじわりじわりと寒気が這い上がってくる。嗚呼まさに、それは紛れもない恐怖。



今日もまた、眠れなかった。




◆◆




書けない。


シワひとつない原稿用紙を前に、いざと握りしめたペンの先は、書き出しの一文字どころかその文字を形成する為の線すら書けずにぴたりと動きを止めた。視界がちかちかと瞬き、大粒の汗が原稿用紙に落ちる。時計の針が刻むヴァニタス。きぃんと耳を劈くような耳鳴りに、思わずペンを投げ捨てた。


書けない。


依然、卓上の世界は色の無いまま。大勢を魅了するような物語の一文も、美しい言葉のかけらすらも思い浮かばない。以前、私はどのようにして小説を書いていたのだろうか。少なくともこんな風に、まっさらな原稿用紙を目の前に憂鬱に悩まされるようなことはなかったはずだ。何故なら私には夢があった。鮮やかに彩られた夢で創造した世界を、ありありと描き出すことが出来たのに。


書けない。


＿＿＿＿弱冠17歳の天才小説家。私を美麗に飾り付け、同時に強く縛りつけた冠はその一言だった。


初めて賞を取った作品は映画化。その後書いた小説もドラマ化し、自分と同じように若いながら高い人気を誇るアイドルがその主人公を演じたおかげか、それは大ヒットを巻き起こした。

だけれど、そのドラマがクランクアップを迎えた直後から、私は物語が書けなくなった。


今まできらきらと輝いていた世界が、急激に色を失っていく。物語の中では何にだってなれる、何だって出来る。そのことに歓喜し、溢れ出す泉は枯れきった。そして世界は無に帰る。

理由は簡単で陳腐だ。背負いきれない期待が私をめちゃくちゃに塗りつぶした。自分の拗れたプライドがその首を絞めた。だからこそ、あなたが私を見る真紅はやけに透き通って見えて、まるで崖っぷちに追い詰められているような思いだった。




ああ、私には、才能がない。




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