【あんスタ】NightTime-Parade!!【短編集】

◇ ページ24

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「……しゅ、宗」

我に返ったのはそれから十分後のことだった。涙が止まると同時に理性も取り戻して現実のあたたかさに頬が熱くなる。逃げ出そうとしてもがっちり捕まえられていて、シャツを濡らしてしまった罪悪感と好きなひとの胸で泣いたきまりの悪さに「ハグとかするひとだっけ」と呟けば「今日だけなのだよ」と。

腰に回された手の優しさに身を委ねれば鼓動がいつもより速くなった。


「前は宗の方が泣き虫だったのに」
「そんな昔のことを持ち出さないでほしいね」


照れくさくて負け惜しみのような事実を持ち出せば拗ねた声が返ってきた。彼が舞台に立っているときの威厳と慈しみに満ちた深い声もいいけれど、これは限られた人にだけしか聞くことができないんだろうなあ。そう思えばますます愛おしくなって、甘えたくなってしまう。
昔は私の方が背も高かったのに今ではすっかり逆転されてしまった。


「久しぶりに会えて嬉しかった。星、見せてくれてありがとう」

「りゅ〜く……鬼龍から君がなんだか悩んでいるようだときいてね。星はAの心も和らぐだろうと思ったのだけれど、どうやら刺激が強かったようだね。すまなかった」

「そんなことないよ、私は救われた。気分が晴れたし。……きっと私ひとりだったら抱え込んで鬱屈した日常を送っていたから」


子どもが片付けたおもちゃ箱より散らかっていた心。それが泣くことによって完全に、とまではいかないけれど整理された。晴れやかな気分になったのも事実である。それでも宗は眉を寄せ浮かない顔をしていた。


「……しかし薬も間違えれば毒になる。何事にも適量があるのだからそれを間違えた僕に責任があるのだよ」

「大丈夫だっ、て、！」

言葉を遮るようにもう殆ど乾いていた涙を骨張った指がそっと掬い取った。驚きで小さく叫んだ私に構わず頬にそのまま滑らせた手が添えられた。
相変わらず左手は腰に絡まったままだ。





「言い方を変えようか、

＿＿＿＿責任を、とらせてくれないか」



目を見開くと同時にやわらかな熱が目の下にふれた。肺がシトラスの香りで満ちて、離れていく頃には染まっていた。薄明の破片、その目尻がしあわせにくしゃりと歪んでいるのを見て息を零した。

口を開いたらまた泣いてしまう気がして、言葉の代わりに両手をそっと宗の背中に回す。私の方が背が低いからしがみつくような形になってしまったけれど、これできっと意志は伝わるだろう。

背伸びしようとした私の肩を押さえて、しゃがんでくれた彼のやさしさを感じたそれは甘くて少しだけ苦かった。


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