微かな光明/第三話 ページ32
防音練習室を開けようとしても、ドアノブは回らなかった。内側から鍵がかかっているらしい。ふむ、と零さんは呟いて、ことも無さげにブレザーのポケットから例のマスターキーを取り出す。
「……相変わらず周到ですね」
「こういうとき役立つからなかなか手放せんのじゃよ」
そう言いつつも、手放す気など些かもないのだろう。食えない笑みを浮かべ、僅かに得意げになって彼は扉を開けて私を通した。一歩踏み込み、そこで中の様子に思わず立ち止まる。
そこでは、決戦を明日に控えた後輩たち5人が円陣を組んでいた。
「俺たちの夢は無限大だ!絶対勝つぞ〜、えいえいおうっ☆」
その声は覇気に満ちており、一縷の憂いも感じられない。明日は虚しい敗退の待つ死所かもしれないというのに、そうは感じさせない明るい夜だ。
頼もしいなと感心していると、零さんも同様に感じ取ったようでくつくつと笑った。
「決戦前夜じゃというのに、賑やかじゃのう?死地を前にして笑えるとは、頼もしいかぎりじゃ。くっくっく♪」
「あっ、朔間先輩。A先輩も!ちゃんと施錠したのに、どっから入ってきたの?」
「我輩は吸血鬼じゃからのう、施錠など無意味じゃよ」
「いやいや鍵でしょう普通に……勝手に作ってるんだよ、スペア」
格好つけた冗談に軽く突っ込むも、彼は悪びれず「Aだってこれ使ったじゃろ」と聞こえるように呟いた。いや、それは零さんに否応なく鍵を握らされたからで、と反論したかったが、非合法で無粋な法網潜りを純粋な後輩たちに知られたくなくて口を噤む。何も言えず黙ると彼は端正な口元でいたずらに笑った。
ともあれ、彼らの様子は希望的だ。ここまで活気があれば、明日も期待していいのかもしれない。
「この二週間、世話になった……朔間先輩。どれだけ感謝しても足りない、ほんとうにありがとう」
「礼を言われるほどではない。我輩は何もしておらんよ」
否定しつつも、彼の瞳の朱殷に潜むのがサティスファクションであることは容易に把握できるが、満足気に伏せた目を次に開けたときには一転して憂いを浮かべ、朔間零は独白した。
「それに、これは我輩の罪滅ぼしでもある」
罪。彼の自意識の中で常に存在する罪の概念の痛々しさは、空漠として計り知れない。『五奇人』が学院を混沌たらしめたわけではないのに、望んで『五奇人』となったわけではないのに。なぜ彼が罪の意識に苦しめられようか。
零さんの悄然たる面持ちを後輩たちがいかに読み取ったかは不明だが、私には彼の悲痛な記憶が目に浮かぶように流れ込んでくる。それこそ私の、忌まわしき体質に他ならない。
707人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月29日 18時