涙雨とセニシエンタ 第二幕【あんスタ】

微かな光明/第二話 ページ31

星の名を持つ彼らが、全てを覆す活力を有することは分かっている。とすればあとは環境が味方すればいい。
しかし手放しに期待できるほど私は悠長ではなかった。私は『S1』の運営に手を回し、本来予定されていない音源や照明といった裏方の手配を整えた。生徒会にとって流れ作業にすらなりつつある常勝のライブ、指示書を作り替えるだけで事足りるのが幸いだ。
アイドル科のエンジンに入り込むなら、彼らが授業を受けている最中しかない。結果的に私が普通科の授業を受け損ねたが、そこは最早大きな問題ではなかった。

「ふむ……丸一日でここまで仕上げるとは、さすがA。見上げたものじゃ」
「『UNDEAD』の楽屋も手配してます。生徒会と顔を合わせないように遠くの空き教室で、使い勝手は悪いと思いますが……すみません」
「いいや、十分じゃよ」
「それから、告知の開場時刻を30分前倒しに。スタッフにも同様に伝達しました。客入りは早くなります」

準備は綿密。つまりは『UNDEAD』がパフォーマンスを開始したとき、邪魔されない環境が必要だった。

「そうじゃな。我輩の知る限りでは、生徒会は人手不足……会場スタッフも校内アルバイトで賄っているという話じゃ。下っ端の其奴らに我輩たちを追い出す真似ができるとも考えにくいし、蓮巳くんが事務仕事で生徒会室に缶詰めになると見込んで、我ら『UNDEAD』の演目は早く始めるのが得策じゃろう」

相変わらず零さんは学院や生徒会の事情に詳しい。けれど、彼の言う通りにことが進むなら、こんなに都合のいいことはない。
『UNDEAD』が演技を開始すれば、遅かれ早かれ副会長・蓮巳敬人の耳にも情報は入る。『紅月』が集結し、柔軟に対応されれば、奇策は奇策でなくなる。そこは零さんの手腕に期待するしかないのだろうけど……。

「しかしまあ、仲間は我らだけではない。我輩の愛し子たちが、万全に駒を進めてくれるはずじゃ」
「……そう、ですよね」

――私が生徒会室に忍び入り、参加の手配りをしておいたのは『UNDEAD』だけではない。朔間零の秘蔵っ子、弾丸のような勢いと魅力を持った新進気鋭の双子ユニット『2wink』が、私たちの計画を上手く作用させてくれると信じている。

「あのふたり、初参戦のドリフェスなのに……前座みたいな立場にしてしまって、申し訳ないです」
「尚更負けられんのう。……では、そろそろ行こうか」

彼らのためにも、今後全員が正当に評価される学び舎を、表現の場を、手に入れなければならない。
日も暮れて東の空から薄群青が広がる頃、防音練習室では若者たちの決起が行われていた。

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