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ヒロイズムは縹渺/第一話 ページ24

「ほんっとに焦ったんですよ!?」
「よ〜しよし。怖かったのう」
「……撫でないでください」

頭を撫でる手を思わず払い除けた。そういう扱い方は、動揺してしまう。零さんは払われた手をちらりと見やって、苦しそうに力なく微笑を浮かべた。

「まあ、ともあれ無事に申請書を通してくれたようでよかった。ありがとう」


――結果的に今日、私は『UNDEAD』の参加申請書を無事ファイリングした。あのあと、着替えを生徒会室に置き忘れて取りに戻った2年生の生徒会役員というのが『Trickstar』のメンバーだと知り、秘密裏に協力関係となったのだ。以前の【龍王戦】で私を捕えなかったことを内緒にした、その対価として。
そして今、借りていた合鍵を返すべく、再びプロデュース科の格好をして、軽音部室に戻っていた。

「……それにしても、懐かしい。昔が甦るようじゃ」

零さんの赤い視線が、どこか居心地の悪い朱雀青のブレザーに向く。私たちの、数少ないお揃い。
昔に戻れたなら、どんなにいいか。仮令どんな地獄でも、どんな結末でも、あの日々が青春で楽園だったと言ってしまいたい。
頼りなさげな手がブレザー越しに肩に触れた。……この手も、直接触れたなら、相変わらず冷たいのだろうか。

「髪は、少し伸びたかえ。以前も綺麗な長い髪ではあったが……顔色も良くなったのう。よく休めているようで、安心した」

肩に触れた手が肘まで降り、腕から髪へ。髪から頬へ。彼の手の温度はすぐに伝わってきた。やはりあの日と変わらない、冷たい冷たい指先。記憶をなぞるように親指が目の下を撫でた。秋の肌寒さがフラッシュバック。
つい見上げた零さんの目は、懐旧の情に細められている。


「……零さん、あの」
「A、教えてほしい」

――そうやって愛おしそうに私に触れるのは、どんな意味があるんですか。
そう尋ねようと浮かべた言葉は、彼の言葉に制されて呆気なく崩れていった。


「……Aは今、我輩のことをどう思っている?」


自分ではなく、相手に先に答えさせたいと、両者が思っている。そして私が同じ質問を浮かべていることは、恐らく零さんには明白だった。
かつては後先考えず私が告白し、盛大に振られ、そのまま一度の別れを迎えた。しかし「会いたかった」「絶対に守る」「傷付けたくない」それらの言葉の端々に滲む微かな慈愛に、気付かないほど私は愚鈍ではない。


「零さんが言えないことは、私も言えませんよ」

私たちは、いつからこんなにも意思疎通ができなくなってしまったのだろう。

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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:更科 | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年11月29日 18時

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