繰り返す邂逅/第一話 ページ17
すっかり放課後になってしまった。明日から始まる特訓に備え、『Trickstar』や部員たちはみな軽音部室を出た。
零さんと二人きりで部屋に残されると、忘れかけていた気まずさが戻る。何か言葉を挟んで空気を持たせようとするが、そうもいかず所在なげに黙るのみ。
「……A」
静かな部室に、零さんの言葉は重く落ちた。晩暉に溶けてしまいそうな儚さはかつての彼の存在感とは別のベクトルであれど、その人並外れた美しさは変わらない。
「すまなかった。無理やり付き合わせてしまって」
謝るのか、と思った。この私が零さんの願いを聞き入れないわけがないのに。
例えそれが、永遠に離れ離れになる申し出だとしても。
ずっと会いたかった相手だ。けれどそれを伝えるのに、役立たずな唇がどうしようもなく震えた。
「いえ……久々に会えて、良かったです」
「Aに会いたかった。ずっと」
狡い。心から思う。
私が意を決して、表現し得ない痛みを伴いながらこの胸をナイフで切り開いて、その内側を見せることで漸く言えるような重たい一言を、あなたは微笑みを携え簡単に零してしまう。その余裕に、愛おしさに、込み上げてくる熱さを胸の奥に戻した。
「突き放したことをずっと後悔していた。一緒にいてはAまで人間でなくなってしまうと、そんなことを恐れて……何もかもを、有耶無耶にした」
絵画のような、完成された美しさをもつ零さんの、長いまつ毛で縁取られた赤い目が悲しく揺らいだ。赤色が濡れて色を深めたが、彼が私の前でその雫を落とすことは決してない。
相対する私は、発言権を持たない。
繋いだ全ての手をいつまでも離すことができず、全員が救われる結末なんて幻を夢見て、結局全員傷付けた。
誰かが学院に頭を下げて、私を普通科へと遠ざけたのだ。具体的に誰とは言われなかったが、複数人いたというあたり、目の前の彼も含まれるのであろうことは目に見えている。
「――だから、今度は絶対に守ると決めた」
零さんの言葉に呼応するように、春寒の冷たい風が吹き込んできた。
どうして。私はあの悪夢を忘れようとしていたのに、どうしてそう言ってしまえるんだ。忘れたくて何度も振りほどいた、けれど色濃く記憶に残り続けるあの日々。こうしている間にも、零さんの声ひとつひとつに懐かしさを取り戻していく。
関われない。関わりたくない。また一緒にいたい。
喉がひりついて声が出ないのは、私の思いすらまとまっていないからか。
私の沈黙をどう解釈したのか、恐らく表情から漏れ出た戸惑いを掬いとったに違いない。彼は笑いながら目を伏せた。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月29日 18時