丹青之信/1(side無し) ページ45
数日後。
「他に何か聞きたいことはあるかい?」
『星雨祭』後、学院に姿を現さなかった____ただしくは自宅謹慎を言い渡されていた(もしそれが無くとも学院には来ないつもりだった)ニナは、最後の登校として生徒会室を訪れていた。
退学手続きも終え、その他諸々の事柄も聞き終えた。もうここに用は無い。ニナは首を振り、いつもの如く食えない微笑を浮かべる英智に「それじゃ、さようなら」と形式だけの挨拶を口にして、踵を返す__その背を追うように、英智は発した。
「僕はあの子が大嫌いなんだ」
ニナは足を止めた。しかし振り向こうとしない彼女に、彼は続ける。
「生まれたときからの天才で、どんな危機も脱却出来るような行動力と幸運を持っている。将来の成功が約束されている。希望に満ち溢れていて、不幸なことなんか何もない様な顔をしたあの子が嫌いだよ。……心底、羨ましいから」
少女は答えない。
「きっと君も、そう思っていたんだろう?一緒にいた少ない時間の中であの子に魅せられた、だから嫉妬して、あの子に成り代わってやろうとした」
「まさか」
半ば嘲笑混じりの声を、ニナは吐き捨てる。須臾の沈黙、聞こえたのは果たして物柔らかな声だった。
「君と僕は、少しだけ似ていると思うんだ。凡人は天才にはなれない。君は、それをよく理解しているだろう?」
「……うっさいわね。貴方みたいな人、大嫌いよ」
「だから君は、小道具を利用した。才能で勝てないのなら、別の物で補えば良いからね。君の使っていた香りは、僅かに催眠作用のある特別な香だ。体質上効かない人もいるみたいだけれど、ほぼ全ての生徒が惑わされた」
「そこまで分かるなんて、さすが天下の皇帝様ね」
「恐縮だね。でも、僕も全知全能の神さまじゃないからねえ__色々使って、調べさせてもらったんだけだよ」
茶目っ気を含んだ声に、ニナはため息をついた。もういいかしら、と相変わらず背中を向けたまま言う彼女に、英智は「そうそう」と口を開く。
「君、プロデュースの腕は悪くないよね。どうだい、将来うちで雇ってあげようか?」
「……仮にも生徒に怪我をさせた奴に、随分酔狂なことを言うのね。願い下げよ、反吐がでる」
「あはは、ブレないねえ。確かに、君のおかげでプロデューサーのテストケースを転入させるのは一旦見送りになったけどね。少なくとも来年度まではあの二人でやっていくことになるよ」
「あっそ。興味ないわ」
最後まで振り向くことはなく、ニナは部屋を出る。
と。
部屋の真横、廊下の壁に寄りかかっていた人物に気づいた。
2090人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
べベンべエエェェ - また戻ってきました!この作品がお気に入りになってどの小説の設定も星川、というのを使わせて読ませてもらってます!ありがとうございます! (2022年6月9日 23時) (レス) @page29 id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
ベベンべエエェェ - またニナが足を洗って帰って来てほしいかなと思います。続編が出来たらとっっっっぅても嬉しいです (2021年8月4日 21時) (レス) id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
CloveR(プロフ) - 面白すぎて2日で読み終わりました……。(続き気になりすぎて2日とも5:00くらいまで寝れなかった)寝る前に読んだの後悔するくらいおもしろかったです…! (2021年7月29日 3時) (レス) id: f7412586d4 (このIDを非表示/違反報告)
髪様 - ゆうさんと同意見です,完璧ですわあ、、、、 (2020年5月8日 11時) (レス) id: a311e75dfe (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - なんだろう、なんて言えばいいかわかんないんですけど...完璧な小説でした (2020年4月25日 18時) (レス) id: de93f0d8c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ