クレマチスの香に溺れる/2(side無し) ページ12
「……Aがいない!?」
『星雨祭』本番当日。
忙しなく走り回る役員の生徒たちの間で、蓮巳敬人は目がくらむような心地だった。
怒声に似た一言に、Aがいないことを告げた生徒会の少年は一層身を縮こませる。
「はっ、はい……。あの、プロデューサーは一度集まるようにと伝えていたのですが、いつまでたっても集合場所に来なくて……ひっ」
敬人の顔が余程怖かったのか、彼はもう一度探してきますと早口で叫ぶと風のようにその場から消えた。
呆気にとられていた敬人だったが、そんな場合ではない。ふう、と一息ついて、心を落ち着かせる。まさか、あいつ____。
敬人がそこまで考えたとき、その続きを無邪気なボーイソプラノが紡いだ。
「あいつ、ゼッタイ逃げたんだよ!」
怒気を孕んだ声で拳を握りしめた桃李を、敬人は否定することが出来なかった。同じことを考えていたからだ。
続いて、敬人に一人の少年が駆け寄ってきた。
「ふ……副会長、Aがいないって本当なんですか!?」
「……衣更か。そうだな、とにかく今すぐ見つけて引っ張り出してこい」
そうだ、まずは予定通りに事を進めなくては____こんなところで狼狽えている場合じゃない。
了解ですと返事をして、真緒は走っていった。それと入れ替わるように、一人の少女が現れる。
「皆さんっ、大変ですッ!」
長い睫毛に縁取られた、愛くるしいドールのような大きな瞳にうっすら涙を溜めて、ニナは叫んだ。
「Ra*bitsの衣装がどこにも無くて……それから、Aちゃんの姿も見えません!」
ざわりと場に、嫌などよめきが走った。無くなった衣装、いなくなった人物。考えられる可能性は……。
「わかった!Aのヤツ、衣装を盗んで逃げたんだよ!」
今度は、そんな桃李の一言を肯定するかのように場が揺れた。
「桃李。決め付けは良くないよ」
そこで、今まで黙っていた英智が口を開く。「けれど、そう思ってしまうのも仕方のない状況だね」会長である英智の一言だからか、場ではもうすでに「Aが衣装を盗んで逃げた」という結論が出ようとしていた。
許せない、見つけて懲らしめよう、もうほっとこうぜ、などと様々な声がひしめき合う中、凛としたニナの声が場を貫いた。
「待ってください!もしかしたら、何か理由があるのかも……私、皆さんに知らせて探すのを手伝ってもらってきます!」
口元を覆い、再び踵を返すニナ。その唇が緩んでいることには、誰も気がつかなかった。
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べベンべエエェェ - また戻ってきました!この作品がお気に入りになってどの小説の設定も星川、というのを使わせて読ませてもらってます!ありがとうございます! (2022年6月9日 23時) (レス) @page29 id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
ベベンべエエェェ - またニナが足を洗って帰って来てほしいかなと思います。続編が出来たらとっっっっぅても嬉しいです (2021年8月4日 21時) (レス) id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
CloveR(プロフ) - 面白すぎて2日で読み終わりました……。(続き気になりすぎて2日とも5:00くらいまで寝れなかった)寝る前に読んだの後悔するくらいおもしろかったです…! (2021年7月29日 3時) (レス) id: f7412586d4 (このIDを非表示/違反報告)
髪様 - ゆうさんと同意見です,完璧ですわあ、、、、 (2020年5月8日 11時) (レス) id: a311e75dfe (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - なんだろう、なんて言えばいいかわかんないんですけど...完璧な小説でした (2020年4月25日 18時) (レス) id: de93f0d8c4 (このIDを非表示/違反報告)
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