クレマチスの香に溺れる/1 ページ11
いよいよ、ライブは明日に迫っていた。『星雨祭』本戦に出場するユニットを決める予選は何事もなく終わり、knightsも無事予選を通過した。直接お祝い出来なかったのは残念だけど、仕方ないことだ。
ちらりと窓の外に目をやると、校庭の舞台の準備の様子が見える。まだ準備が追いついていないため、学院では沢山の人が走り回っていた。
そしてそれは、私も例外ではなく。私は廊下を足早に歩いていた。とはいえ、私が急いでいるのはSSとは違う用事なんだけど。
「エッちゃん会長いるかなぁ……」
ついぽそりと口から漏れたのは、ため息に似たその一言。そう、今まさに私は、証拠を持って生徒会室に向かっている途中だった。
ニナの自供を撮ったレコーダーに、凶器のカッター。それからもう一つは、「三年生に機材が落ちてきた時の私のアリバイになるもの」。これは、司くんが見つけてくれたものらしい。それしか聞いてないから、これは後からknightsのみんなが合流してから私も初めて聞くことになる。
証拠の入ったバッグを肩にかけ直し、一歩踏み出す。そのとき、ぞくりと背中を撫でる気配に、体が固まった。
「どこに行くの?」
鈴を転がすように美しく儚げで、花が咲いたように愛らしい声。私はこの声をよく知っている。この声に、やられたんだ。
「……ニナ」
振り返って名前を呼ぶと、彼女はくすりと微笑んだ。必死な顔ねぇ、と笑うニナからは、甘い香りが微かに漂ってくる。ゆっくりとバッグを隠したけど、彼女はすっと白い指を私の後ろ手のバッグに向けて伸ばした。
「それ……どうするつもり?全部、分かってるのよ」
全部。その言葉に息を飲む。この人はどこまでわかってるのだろう。もしknightsのことまでバレていたら?……ううん。瀬名先輩ならきっとこう言う。“全部ハッタリだから、乗せられちゃダメ”。
何の話、と真顔で聞き返すと、ニナは笑みを崩さずに、むしろもっと笑みを深くして言い放つ。
「もし、それを使って私を出し抜こうとしているなら____明日のライブがどうなるか、分かっているのよね。そもそも、会長は私の味方よ。貴方の言うことなんか、耳に入れてくれないわ」
背筋は冷たいのに、額からは汗が落ちた。……確かに、そうかもしれない。
「無駄よ。貴方の大好きなアイドルを傷つけたくないでしょう?私に任せてくれれば、ライブは上手くやってあげるわ」
その笑みは確かに邪悪だったけれど____私はそれに、つい、飲まれてしまった。
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べベンべエエェェ - また戻ってきました!この作品がお気に入りになってどの小説の設定も星川、というのを使わせて読ませてもらってます!ありがとうございます! (2022年6月9日 23時) (レス) @page29 id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
ベベンべエエェェ - またニナが足を洗って帰って来てほしいかなと思います。続編が出来たらとっっっっぅても嬉しいです (2021年8月4日 21時) (レス) id: ce3d8a7ebf (このIDを非表示/違反報告)
CloveR(プロフ) - 面白すぎて2日で読み終わりました……。(続き気になりすぎて2日とも5:00くらいまで寝れなかった)寝る前に読んだの後悔するくらいおもしろかったです…! (2021年7月29日 3時) (レス) id: f7412586d4 (このIDを非表示/違反報告)
髪様 - ゆうさんと同意見です,完璧ですわあ、、、、 (2020年5月8日 11時) (レス) id: a311e75dfe (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - なんだろう、なんて言えばいいかわかんないんですけど...完璧な小説でした (2020年4月25日 18時) (レス) id: de93f0d8c4 (このIDを非表示/違反報告)
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