【あんスタ】プルメリア・ナハトムジーク〈1〉

コントラクト/2 ページ9

「……ぷ……？」

俺がおまえをプロデュースしてやるよ。その言葉の意味がよく理解できない。頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべたまま、返す言葉に悩み始める私に彼はあからさまに不機嫌そうな顔になった。

「テメェがそうやってメソメソしなくなるよーに俺が鍛えてやるっていってんだよ、ほら返事」

「え、ええ〜……」

なんか雲行きが怪しくなってきたぞ、と一歩後ろに下がる。逃げ切れるかは不安だけれど、ふいを突けば命は助かるはずだ。

だって、鍛えてやるってどういうことなの。漠然としすぎてるし、嫌な予感しかしない。からかわれてるんだ。うん、きっとそう。

「んだよ、なんか文句あんの？」

と、彼の紅い瞳に睨め付けられて、私は竦みあがった。首をぶんぶんと振れば、彼はまた人懐こい笑顔を浮かべる。……普段の無表情や、不機嫌そうな顔は人間離れした美しさをもっているけれど、その笑顔には少しだけ親しみやすさを覚えることが出来た。

「じゃあ、決まりな。安心しろよ〜、おまえは俺が一人前に育ててやるから♪」

……ああ、巻き込まれた。肩をぽんぽんと叩く手の感触に、私は内心泣きそうになった。強く言えない、断れない性格はこういうところで出てくるんだ。

「……と、自己紹介してなかったか。とはいえ、俺のことは知ってると思うけど。朔間零、知ってんだろ」

朔間零。言われた名前を脳裏で検索。朔間零、さくまれい。聞いたことがあるような、ないような……？
彼のいいかたからしたら有名なのだろうけど、周りの人をロクに見ない私はクラスメイトすら覚えていないのだから、クラスメイトでもない彼を知っているわけがない。

もう一度首を振れば、彼は少しだけ驚いたように目を見開いた。

「へー、しらね〜のか。ふぅん……」

彼の目がす、と細められる。雰囲気が冷たくなった気がして、顔から血の気が引くのがわかった。

「あ、えと、その……ッ、ご、ごごごめんなさい……」

うまく出ない声を搾り出すと、見事に声が裏返った。また笑われる、と覚悟を決めていたら、朔間零となのった彼は意外にも眉を顰めただけで。

「あ〜……まぁ、しらね〜やつもいるよな〜？いいよ。ねぇ、おまえ名前は？」

何故か不服そうに彼がいうから、急いで答える。「あっ、えっ、と、私は…………佐倉、A。……です」そこでようやく、相手のネクタイの色に気づいて、慌てて頭を下げる。

一方、朔間さんは佐倉、A、と繰り返していた。

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