【あんスタ】プルメリア・ナハトムジーク〈1〉

魔法にかけられて/3 ページ46

慌てて瞳を閉じると、続いてまつげ、瞼になにかが触れる感触。微かな感覚がくすぐったくて、何故か少しだけ恥ずかしくなる。

「ふんふふ〜ん、さっさっ、とんとん……♪」

一方、渉さんは鼻歌を続けている。それどころかなんか一人で楽しそうだし、笑っちゃいそう……。

……だめだめ、我慢。急に笑ったらただの変な人だし。まあ、渉さんもちょっと……いやかなり、変わった人だという印象はあるけど。


「はい、顔をあげて。俯き加減になっていますよ」


くい、と顎に手をあてられて、顔があげられる。


＿＿＿＿目を閉じてて良かった……！！

だって、少女漫画みたいに顎を持ち上げられる経験なんて初めてだ。しっかり目を開けていたら羞恥で気絶してたかもしれない。

どきどきと高鳴る胸に、気づかれませんようにと心の中で祈る。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、渉さんの手のひらが頰に触れた。

それから、唇に優しい感触。これは、口紅だろうか？ちいさいころ、お母さんの持っていた赤い口紅に憧れて勝手に使って怒られた記憶がある。そう思ったら、幼い自分の方が可愛らしいなぁ、なんて思ってしまう始末だ。

……また、薄く目を開けてみる。真剣な表情をした渉さんの整った顔が、私に注がれていた。ああもう、本当に綺麗な顔をしてる。零さんも綺麗だったけど、渉さんは彼とは別の方向に美しい。


「……さっきから、ずっと見ていますけれど。私の顔になにかついていますか？」

「っ！？」

バレてた。渉さんは、私の唇から視線を動かさないまま「照れますねえ」と悪戯っぽく呟く。

「み、みてないですっ」

「またまた、嘘はいけませんよ。……さぁて、完成です！」

突如、渉さんの手が私の手を引いた。腰掛けていたソファーから、体が勢いよく宙に浮く。よろめく私を、渉さんは姿鏡の前まで連れていった。

「さあさあ、ご覧あれ！」

ばっ、と開かれた腕の先、鏡の中であっけにとられているのは私。けれど、以前とは大きく違っていた。

＿_瞳を縁取るのは、いつもより長い睫毛。薔薇色の頰と同色の唇は、万人に明るい印象を与えられそうで。



まるで、私が私じゃないみたいだ。



「そして、最後の仕上げです……☆」

目にも止まらないスピードで、渉さんの両手が動く。鏡に写ったそれをみていた瞬きの間、それだけで髪が綺麗な三つ編みに結われる。

ゆるく編み込まれたそれの先を掴み、渉さんは「お揃いですね」と微笑んだ。

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