進歩/3 ページ27
「……で、どうなんだよ。学校は」
休日の父親みたいなセリフを、足を組んで優雅に棺桶に腰掛けている朔間さんが言うものだから、なんだかちぐはぐだなぁと思いながらも、唇を開いた。今日は、いい報せが出来る。
「あ、あの、前の席のひとといっぱいお話、しました」
「へえ、良かったじゃね〜か。なんて？」
「髪似合うねって言われたから、ありがとうって、い、いいました」
ちゃんとお礼まで言えたのだ、素晴らしい快挙だと思う。
ところが、そのとき謎の沈黙が部室を支配した。きょとんとした顔の零さんに見つめられて、さすがにすぐ目を逸らすことはしなくなったものの、少したじろぐ。
「……それだケ？」
と、静寂を破ったのは隣の逆先さんだった。苦虫を噛み潰したような表情で、彼は問う。……？
頷くと、彼はバッと朔間さんにとびついた。それから、コソコソと何やら囁き始める。
「ちょ、ちょっと零にいさん＿＿＿＿大丈夫なノ、あの子？」
「あ？大丈夫って何がだよ」
「一言交わしただけなのにそれを会話にカウントするとカ、あの子は人里離れた山奥出身とかなノ？？」
「いや、んなわけね〜だろ……」
よく聞こえないけれど、逆先さんが妙に焦っているのは見て分かった。私の視線に気づいたのか、くるりと振り向いた彼はつかつかと私の方まで歩いてくると、腰に手をあてて言い放った。
「＿＿＿＿君、会話するの苦手でしょウ」
完璧な図星だ。否定をしても無駄だろうし、する意味がない。微かに首を縦に動かすと、一転彼は底の見えない笑みを浮かべた。
「ボク、親の生業上、人の心理とかに少しだけ詳しいんだよネ。だかラ、君が他人と会話出来るようになるお手伝いをしてあげようカ」
す、と手を伸ばした彼は、その黄金に溶けた瞳を細めた。
『＿＿＿＿さあ、ボクの手をとって』
言われるがまま、その手を取ろうとしたとき。
「夏目」
彼の後ろから、逆先さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の主は棺桶から降りると、カツリと静かに床を踏みながら私たちの方に近づいてくる。それから、呆れたようにため息を吐いた。
「あんまりからかってやるなよ？」
「……チェッ。ハーイ」
からかう……って？
状況把握の出来ていない私の前で、逆先さんはぺろりと小さく舌を出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 820人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まめだいふくもち(プロフ) - こたつさん» こたつさん、ご指摘誠にありがとうございます。漫画などでよく見る表現だったのですが、なにか事件が関連していたのですね…。勉強になりました。つきましては、その表現を修正させていただきます。コメントありがとうございました！ (2017年10月29日 15時) (
レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
こたつ - ドラム缶に東京湾というワードは某事件を連想させるので修正した方が良いのではないでしょうか？ (2017年10月29日 9時) (レス) id: ae4fce482d (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 抹茶粉さん» 抹茶粉さん、コメントありがとうございます！とてもとても嬉しいです…！私もれいさんにプロデュースされたい！という思いから書き始めたので、光栄です笑 (2017年8月2日 22時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶粉 - 零さんにプロデュースされるなんて夢見たいです…！もう始まりから胸のきゅんきゅんが鳴り止みません！笑 続き楽しみにまってます！更新頑張ってください！ (2017年7月26日 16時) (レス) id: 634a139de2 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - ベリーさん» ベリーさん〜！ご指摘ありがとうございます。修正してまいりましたのでご確認ください。そして、またこのような事態があればお知らせください。 (2017年1月14日 13時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
