【あんスタ】プルメリア・ナハトムジーク〈1〉

木陰の遭遇/1 ページ4

昨日は散々な目に遭った。

怖そうな人にぶつかった挙句、相手の服を汚してしまって睨まれるし。逃げかえってふと体を見下ろしてみれば、自分の制服にもトマトジュースがべったりついていたし。

そして、逃げてきたことを1日たった今更後悔し始めている。
だって最低ではないか。謝ることもせず、弁償もせず逃げ帰っただなんて……。罪悪感に潰されてしまいそうで、朝から溜息が止まない。

はぁ、と今日何十回目かもわからない漏れ出た溜息を隠すように、私は机に突っ伏した。またあの人に出会ってしまったらどうしよう？……いや、大丈夫だ。私なんかの顔を覚えているわけがない。って、そうじゃなくて。次あったらきちんと謝るんだ、怖くても我慢して、勇気を持って＿＿


＿＿と、そのとき。ざわり、と教室の空気が変わった。次の瞬間、絶叫に似た悲鳴が聞こえる。

突っ伏した私の横をバタバタと走り抜ける足音がした。え、なに、なに。


「人探してるんだけど」


聞こえた凛とした声に、無意識に体が震えたのを感じた。昨日、初めて聞いた声。けれど何故か、忘れられない声。


＿＿＿＿昨日の「あの人」が、来た。


何故かきゃあきゃあと女子が騒ぐような声が聞こえる。半ば絶叫になっている黄色い声は、何を言っているのかはわからないけれど多分イケメンに興奮しているんだろう。……女子だなぁ。

まあ皆はそれで喜べるのだろうけど、私は違う。体がガタガタ震えだすのを、突っ伏したまま両拳を握りしめて我慢した。

間違いなく、あの人は私を探しに来たのだ。むりむりむり、今日が私の命日になる。私が死んだって誰も悲しまないだろうけど、せめて殺されるなら痛くない死に方が良いな。

「誰探してるんですか？」
「え〜っと、なんか前髪が長くて両目隠れてて、大人しそ〜な子」
「えー、そんなのじゃ分かんない〜」

きゃっきゃ、とクラスのキラキラした女子たちが笑う声が聞こえてきた。まごうことなき私だ。

でも、私は名前すらも覚えられてない上、存在感も薄いから分かるはずがない。だから、大丈夫。顔も隠してるし、見つからない。

心臓がバクバクいっているのが、自分でも分かった。はやく、はやく帰って。

さっき謝ろうと決意したのはなんだったのか、私は必死に祈っていた。その願いが届いたのか、彼の「ここにもいね〜のか……」という、落胆したような呟きが聞こえてくる。

そのあとすぐに去っていったようで、声は聞こえなくなった。

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