▼ ページ49
.
「前、街歩いてるときに目ぇ合ったと思うんやけど……お、覚えてない？」
『……えぇ、と』
もちろん覚えている。
何せ私が街に下りたのはあの一度きりなので、その日あった出来事はよく思い出せるし、それに。
――また会わんかなぁ！
次の日、そう言っていたことも。
「あっ、ごめん、俺の勘違いか！ なんかキモかったな俺……ごめん」
もう一週間以上経っているのに、よく知りもしないあの日の私を忘れていなかったのか。
そのことが何だか嬉しくて、くすぐったくて。
ふふ、と笑うと、彼は何を勘違いしたのかあたふたと手を閉じたり開いたり。
「え！？ えぇ、あー」
『覚えていますよ、私も』
「……え、あ、ほんま？」
『はい。確か、コネシマ様とひとらんらん様と一緒だったかと』
「っ、そう！ 覚えてたんや！」
またも嬉しそうな笑顔が光り、こちらもつられて口元が緩む。
感情が素直に顔に出るんだろう。彼に対する好感度がぐんと上がった。
「あの、さ」
『……はい？』
「急に声かけてあれなんやけど、良かったら俺と歩きませんか」
笑顔のまま、瞳に真剣さを少し混ぜて、彼はそう誘った。
こんな目で異性から誘いを受けたことなんて、今まで一度もなかったから。
『……はい、私でよければ』
断る理由なんて、探そうともしなかった。
「……や、やったっ！」
ありがとう、と笑う目元がほんのり赤みを帯びていて、目が釘付けになる。
あ、と思った。しまった、とも少し思った。
鈍感を装うつもりもない私は、彼の好意が私が思っているよりも軽くないことに気付き、不用意に頷いてしまったことを今更ながら後悔する。
『あの、シャオロン様……私やっぱり、ここで本を探して――』
「ん、なんて本？ 一緒に探すわ！」
『……』
しかし、この笑顔をもう少し見てたいかも、と。
無性にそう思ってしまったのだ。
『――シャオロン様。ところで連れがいらっしゃったのでは？』
「え？ ……あ、忘れてた。ロボロとゾムどっかに置いてきてしもた」
『大丈夫なんですか？』
「あーどうかなー。でももう見失ってしもぉたからなーしょうがないなー。うん、しょうがない、大丈夫や！」
『そ、そうですか……』
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 389人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜風−yorukaze−(プロフ) - とても面白くて、サクサク読めます！これからも頑張ってください！ (2020年4月26日 17時) (
レス) id: 58cfefca5b (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - wlthzさん» コメント、ご意見ありがとうございます。一言についてですが、このスタンスをとれるのも紙媒体の小説にはないサイトの魅力だと考えていますし、これを気に入ってくださる方も居るので、今後は思いついたときに挿入するスタイルに変更しようと思います。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
wlthz(プロフ) - コメント失礼します。１話終わるごとに挿入される一言で興が削がれます。物語自体は面白く読ませて頂いているので、そこだけが少し不満です。 (2017年7月24日 19時) (レス) id: 45eb196b6e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：江之子
| 作成日時：2017年5月9日 0時
