射手。38話 ページ39
*
ゆっくりと目を開けてさっちゃんの方を見る。さっちゃんもあたしを見ていたらしく、ぱちっと目が合った。そして思わず吹き出す。両手を口に当ててふふっと笑みをこぼすさっちゃん。あたしもそれを見て笑った。
ひとしきり笑ったあとに2人でため息をつく。同時についたものだから、また吹き出しそうになってしまったのだけれどね。
「……さ、帰ろうか」
「うん、そうだね」
まだ名残惜しいけど、もうそろそろ帰らないと。まだあたしは松葉杖だし、もう空も藍色に染まってきたから。
「また今度、会いに来るね」
さっちゃんと一緒にひらひらと手を振って、少しずつももちゃんのお墓から遠ざかって行く。
来てくれてありがとう。
私も、ずっとずっとだいすきだよ。
A、私の分まで幸せになって。
紗季と仲良くね
私の幼馴染で、親友でいてくれて、
本当にありがとう。
……風に乗って、どこからかそんな声が訊こえた。前よりも少し落ち着いた、優しい声。思わず振り返って見るけど、あたりには何もなくて。
「ん?A、どうしたの?」
「……いま、ももちゃんの声が……」
「え?百奈の声?」
訊こえなかった?と言うと首を横に振るさっちゃん。どうやら彼女には訊こえていなかったらしい。訊こえたの?百奈の声が?と不思議そうに首を捻る彼女の姿が面白くて、ふふっと笑みがこぼれた。
もー!なんで笑うの〜!とほっぺを膨らましてぽこぽことあたしを軽く叩いて来るさっちゃん。その時、もう一度さぁっと風が吹いた。
…………………
「っ!訊こえた!今、百奈の声が確かに……!」
「ほんと!?」
ばっと自身の耳を押さえて嬉しそうに笑うさっちゃん。その目はなんだか潤んでいるように見えた。
「ももちゃんはなんて?」
「んー……。……なーいしょっ!」
あたしの前に出て後ろ向きで歩き始めたさっちゃんは人差し指を唇に軽く当てて、今から悪戯をする子供みたいににっと笑った。
「教えてよ〜、さっちゃん〜」
「やぁだ〜。私と百奈の秘密だも〜ん」
「え〜」
ふざけあいながら病院へと帰る。ふざけあってても、さっちゃんはちゃんとあたしに無理しないように気を遣っててくれてるのが肌でわかった。
病院に着いた頃には辺りはもう暗く染まっていて、さっちゃんが帰ってこないのを心配した彼女のお父さんが入り口を出入りしていた。
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受験生 - こんばんは、高校受験をあと一週間後に控えた受験生です。はい。なにやってんだ。勉強しなくちゃいけないのがわかってたけど、読み進める手が止まりませんでした。私も夢主みたいに乗り越えていきます。たくさん勇気を貰いました。ありがとうございました!!! (2020年2月24日 22時) (レス) id: 61c0c59d71 (このIDを非表示/違反報告)
岡本 珠理奈(プロフ) - いろえんぴつさん» そうなんですね!これからもよろしくお願いします! (2018年8月1日 21時) (レス) id: 05e4939074 (このIDを非表示/違反報告)
いろえんぴつ(プロフ) - 私は15年しか生きていない高1です。(笑) (2018年8月1日 20時) (レス) id: c175a64265 (このIDを非表示/違反報告)
岡本 珠理奈(プロフ) - いろえんぴつさん» ありがとうございます!はい笑、まだ16年しか生きていない高1です……笑。コメントありがとうございます!これからもがんばりますね! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 05e4939074 (このIDを非表示/違反報告)
いろえんぴつ(プロフ) - 完結、お疲れ様です!!高校生だったんですか!?これからも頑張ってください (2018年8月1日 17時) (レス) id: c175a64265 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:岡本珠里奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hsjkei1/
作成日時:2018年3月25日 18時