暗闇の中じゃ、何も見えない。２ ページ10
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ベッドの上には、
端に寄った、櫻井さんが寝息を立てていて、
その上半身が、私が起きた時と同じく何も身にまとっていないから
私が出て行って戻ってくるまで、たぶん一度も目が覚めていないんだと思う。
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音を立てないようにそっと、隣に潜り込んで
背中を少しの間眺めていた。
ああ、そういえば今何時なんだろう、と
枕元に置いた端末の電源を入れたら、表示されていたのは「3:26」という数字で
その下にメッセージの通知があった。
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"大野智"という送り主を告げる文字の羅列に、
きしり、と胸の奥がきしんで、ゆっくりとそれをタップする。
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日本とニューヨークの時差は13時間。
たぶん向こうはお昼の10時くらいだと思う。
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おはよう、の後に、まだ夜中か、って気づいたような言葉があるけど
きっと送る前から時差があることなんて気づいていて
だけど、私が遠くにいるからって気を遣わないようにしてるんだって、
私は心のどこかで思っていたりする。
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大野さんからのメッセージは、いつだって温かくて、
可愛い猫を見つけたとか、デザイン画が先方に気に入られたとか、
丁度今日みたいな、綺麗なステンドグラスを見つけた、とか。
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どこかの教会のものなのか、色がついた光が差し込む
複雑な模様のその写真がいくつか添付されていて
その下には、おすそ分け、と続いていた。
綺麗ですね、どこの教会ですか？とメッセージを送ったときだった。
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「…まぶしい、」
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隣の彼がぴくり、とも動かずに
低く響く声でそう言って
私は咄嗟に携帯の電源を落として、息を止める。
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「すみませ、」
「…、寝ないの」
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ため息交じりのその言葉と同時に、
彼はようやく身じろぎをして、身体ごと私に向けた。
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「、寝ます、ごめんなさい」
「…シャワー浴びたの、」
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何でそう判断したのかは分からないけど、
問われたことに間違いはないから、
そのまま静かにうなずいて見せる。
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そう、と言った彼の2つの瞳が、
暗闇の中で、ゆらり、と揺れて、光った、気がした。
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