Sho.S* WARM EMPEROR -The World of Flower- (ページ12)

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ふと思い出す暖かな瞳は。ページ12

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「、お気をつけて」

「…」

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私が選んだネクタイをつけた彼が、

今日も城から出て行く。

鞄を受け取るときに、暗い茶色の髪が、さらりとゆれた。

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カチャリ、と音を立てて

自動的に鍵がかかったそれをしばらくの間見つめて、

ふ、と息を吐いてリビングへ向かう。

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洗濯機が回っている音が微かに聞こえて、

その後すぐに壁に掛かっている時計に目を向けた。

自動で乾燥してくれるそれなので、終わるまでまだしばらくかかるはずだ。

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彼が残していった、果物をちょっとつまんで、

そのままソファにぽすん、と沈んだ。

深く長い息を吐いたら、なんだか自分がどうでもいい存在になったようで

そんなことを考えている自分が可笑しくて、思わず笑ってしまう。

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数時間前に、大野さんから返事が来ていた。

丁寧に張り付けられた、日本語の住所に懐かしさを覚える。

"ここの"

と短く書かれたそれに、"〇〇駅の近くですか？"と返す。

…最も、私はきっと二度と行けないと思うけど。

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神様に見つかって、今までの罪を咎められて、

そしたらきっと、罰として何もかも取り上げられてしまう。

他人から見たら、不幸でしかないこの生活も

今の私には全てでしかなくて、きっと失ったら生きていけない。

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私が送ったメッセージに、一瞬で既読がついて、

え、と思った時には、私の言葉を肯定する言葉が返って来ていた。

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"…仕事してます？＿"
"＿直帰"
"え、いいな…ずるい＿"

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反射的に送ってしまった言葉に、すぐに後悔した。

…なに、ずるいって。

働いてもいないくせに。

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画面の向こうの彼が、

ふ、と優しく笑っているような気さえした。

大野さんは、いつだって、私を咎めるようなことは言わない。

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"＿いいでしょ？"

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…ほら。

まるで、今も一緒に働いているみたいに、

私がまだ、大野さんのデザイン助手であるみたいに、

彼は、いつだって優しい言葉を紡ぐ。

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会いたいなあ、と思う。

恋しいなあ、とも思う。

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大野さんが作り出す、色鮮やかで温かいデザインに囲まれて

一日を過ごすことができたら、どれだけ幸せだろう、と。

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叶える権利どころか、

望む権利も、もう私には、ないのだけれど。

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