赤ずきんちゃんごっこ ページ9
今日の花宮真は機嫌がよかった。
原と山崎がまとめて練習に遅刻しても、瀬戸の寝起きが最悪すぎて花宮を「オカンまじで良い加減にしろ」と罵っても、古橋が花宮宛に届いたラブレターを燃やそうと校庭でボヤ騒ぎを起こしても、のべつ幕なし全てに「あっそ」と返すだけで済ませていたほどだ。
一体何があったのかは知らないが、Aが部活外で花宮へ話しかけても「プライバシーの侵害」と追っ払うことなく応じた。これは根比べゲームが始まって以来、初めてのことである。
さらに花宮は、Aにこんなボーナスをも与えた。
「今日限り、どんな質問にも答えてやるよ。ただし面倒臭ぇから、赤ずきんちゃん方式で、5W1Hを駆使しながら極めて事務的に疑問を伝えろ。このスキルは社会人になっても使うからな。ビジネスの基本だ覚えとけバァカ」
無茶苦茶である。
花宮は大概、(部活の時だけだが)不遜で自分勝手であるので、こうした無茶振りをよくする。
Aもそれに慣れてはいたので、あわあわと慌てながら、ゆっくり質問を捻り出した。
「花宮君は、なぜバスケをしようと思ったんですか」
「……あ”?」
花宮の機嫌が急降下した。
バンジージャンプよりも突然の事態に、Aはドッと冷や汗をかく。
「いや。……いやいやいや……。オレがせっかくやった大ボーナスを何に使ってんだテメェ」
「ひい! ごめんなさい……!」
「ウゼェ死ね。「花宮君ってカレー甘口と辛口どっち食うんですか?」とか「花宮君って服のサイズいくつなんですか?」とか「花宮君っていつもどっち足から靴履くんですか?」とかそういうのを聞けよ」
「え。そんなこと聞いても仕方がないので……」
「お前本当にオレに感銘受けてんの?」
「もちろんです受けてます!」
「オレの使いっぱになる覚悟あんの?」
「花宮君は使いっぱに任せるよりご自分で作業なされた方が効率がいいと思います」
「こいつマジで生ゴミの日に出すか。ふざけんなバァカ」
想像以上にAに自我がありすぎるので、花宮はこめかみに青筋を浮かべて笑った。
二度とオレに逆らえないよう、今日は一晩跳び箱の中にでも閉じ込めて、鍵しめてとっとと帰ってやろうかなとすら思ったほどである。
「花宮君、別に内申点あげる必要無いですよね。推薦なんかもらう必要ないですし……なのに、何で部活動に本気で取り組むのかなって思いまして……」
花宮は呆れ果てて、空を見上げた。
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作者名:リネン | 作成日時:2022年5月17日 1時