怨恨と軽蔑2 ページ14
子鹿のように震えたAは何の役にも立たなかった。
結果から言って花宮は、結局あの場を自力で脱出したのである。
まず花宮は、ポケットからサッとチャッカマンを取り出した。
少年は怒りのあまり、両手で花宮の胸ぐらを掴んでいたので、瞬時にチャッカマンが振り払われることはなかった。
花宮がまるで脅かすようにチャッカマンを掲げたものだから、少年たちは「だから何だよ」と言った。
「そんなもんが脅しになると思ってんのかよ」と。
──脅すつもりはねぇよ、バァカ。
心の中だけでそう言って、花宮はさっさともう一方のポケットからマグネシウムリボンを取り出し、それに火をつけた。
カッ！ と信じられないくらいの閃光が、路地裏に走る。
この辺りには、雑木林があるのだ。木々に月明かりも街灯も遮られ、周囲は海の底のように暗い。
それが仇となったのだ。
少年たちは、突然の閃光に目を焼かれ、初動が遅れた。
だってまさか、そんなもんをポッケに入れて持っているだなんて、誰も思わなかったから。
この隙をついて花宮は、とっとと自力で逃げ出したのである。
もちろん、震え上がったAも連れて行かなきゃいけなかったので、花宮は盛大に舌打ちをしたけれど。
「テメェ助けられる見込みねえなら来んなバァカ」
「ごめんなさい……」
「ごめんで済んだら警察も正義の味方気取りのダボもいらねえんだよ」
「うう……ごめんなさい……」
「テメェの口からはごめんなさいしか出ねえのか？ ふはっ、謝罪なんて今どきAIでも言えんだよ。人間がAIに勝る点は唯一、想像力とオモテナシの心だけだろうが。想像力働かせてどこが悪かったのか30字以内でオレに説明してみろ」
「おもてなしなんかと一切無縁の花宮君に言われたくないです……」
「お前はオレにそれが言えて、マジで何で警察呼ぶくらいのことができねえんだ……？」
花宮は心底不思議そうな顔をして言った。
それは尤もだった。
「……は、花宮君は」
「おうまだ喋んのかよ。もういいから帰れよ」
「花宮君は、こんな怖い思いするのに、なんでラフプレーやめないんですか……」
ぱち、と花宮が眠たそうに瞬きをする。
つまんねぇこと聞くなあ、という顔だった。
「ンなの、普通にバスケしてる奴が嫌いだからに決まってんだろ」
──オレを恨んだアイツらと、結局根幹は一緒だよ。
ガシガシ頭をかきながら、花宮はぶっきらぼうにそう言った・
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作者名：リネン | 作成日時：2022年5月17日 1時
