手袋−６ ページ43
私が好きになったのは、リンクの上にいる結弦くんじゃない。
今も、昔も。
「あの子は見事に“羽生結弦”を演じている。フィギュアスケーターは天職ね。―――でもね、誰だって素の自分に戻る場所は必要」
「………、……」
「ゆづにとって、あなたは“羽生結弦”を演じなくてもいい相手なのよ。理屈じゃなくて、心が求めているんだと思うわ」
「……そうなんでしょうか？」
「だって、十年も離れていたのに、こうしてまたお互いに惹かれ合っている。なによりの証拠じゃない？」
「………………」
母親とあまり変わらない年齢の奈々美先生から面と向かって言われて、気恥ずかしいのに―――私の心は、その言葉を自然と受け入れている。
自信を持っていいのだと、勇気づけられている気がした。
「それとも、一方的にゆづが綾瀬さんを追いかけているだけかしら？」
「え、そんなことありません！ 私も結弦くんのことが―――」
勢いあまって言いかけて、私は口元を手で覆う。
「ふふ、その先の言葉を聞くのは私じゃダメよね」
窺うような瞳で私を見ていた奈々美先生は、柔らかに微笑む。
「綾瀬さん」
「はい」
「ありのままのゆづを好きでいてあげて」
ありのままの結弦くん……。
迷いだらけの私は奈々美先生の真意を掴めそうで、掴めないけれど。
結弦くんにとって必要な場所に自分がなれているなら―――私が結弦くんと一緒にいる意味があるのかな。
「私が今日話したこと、ゆづには内緒ね」
唇の前に人差し指を立てた奈々美先生がウインクする。
「はい。……奈々美先生」
「ん？」
「ありがとうございます」
人よりも抜きん出た存在の結弦くんには、常に孤高の人というイメージがつき纏う。
だけど、奈々美先生が結弦くんを大切に想っていることが伝わってきて、結弦くんは孤独なんかじゃなくて素敵な人たちに支えられてきたんだと、心に沁み入るように感じていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 203人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、コメントありがとうございます。しばらくじれったい状態を続ける予定です(笑) 罪悪感と妄想の狭間で悩みますが、結局妄想には勝てない。心の中で羽生さんに謝りながら書いています(^_^;) (2022年1月12日 22時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - ちなみに、罪悪感は、私の場合三日くらい経ったら消えます(笑)最初はすごくあったけど、結局妄想は止まらない感じ…。申訳ないですよね、ほんと。 (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - くっつきそうでくっつかない(笑)じれったい二人をまだまだ見ていたいです＾＾毎日楽しみにしています！ぜひぜひ羽生さんに幸せをあげてください！ (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年12月18日 20時
