酸いも甘いも好きのうち (ページ7)

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オレはハッと我に返る。

｢……す、すまない…｣

語りすぎた。引かれてしまっただろうか。興奮するといつもこうなってしまうのはオレの悪い癖なのかも知れない。

謝罪の言葉を口にすると、彼女は突然声を出して笑い出す。

それを見て今度はオレが豆鉄砲を食らった様な顔をする。

｢嬉しい！！こんなに素直な感想言ってくれる人、今までいなかったから……！本当に嬉しい！！｣

無邪気に笑う彼女。こんなふうに笑うのか。また彼女の新たな顔が知れた。

｢……君の名前、教えてくれないか。｣

気づいたらそう告げていた。オレはただの客なはずだ。それに例え教えられなくても調べて知ることは出来る。それでも聞きたかったのだ。彼女の口から告げられる、彼女の名前を。

｢私の、私の名前は＿＿｣

＿＿＿

｢A。｣

あの日、もうすっかり聞きなれたベルを鳴らしながらドアを引く。

その音に気づいた彼女はゆっくりと振り返る。

眩しい程の微笑みを浮かべながら。

｢ふふ、いらっしゃいませ。メローネ。今日は遅かったね。｣

あぁ、やっぱり彼女のこの表情を見てるととても落ち着く。オレはこれを見るために生きていると言っても過言では無いかもしれない。

｢今日は少し寄り道をしたんだ。花屋にな。｣

後ろに隠し持っていたチューリップ彼女の前に差し出すと、彼女は目を見張る。

｢これ、私に…？｣

｢君以外誰がいるっていうんだ？｣

｢それもそうだね。ふふ、嬉しい……！こんな真っ赤な綺麗なチューリップ、初めて見た！｣

｢だろ。花屋の店員がわざわざ1番綺麗なものをくれたんだ。いいだろ？｣

｢うん！本当に素敵！……というか意外。メローネって意外とロマンチストなんだねぇ～。｣

彼女は楽しそうに鼻歌を口ずさみながら花瓶に水を入れて、チューリップをその花瓶に挿す。
そしてそれを埃が一切被っていない窓枠に飾る。

Aの店には常連の客しかこない。その為、基本的に店には人が少ない。そしてオレはその常連の1人でもある。あの日を境に彼女の料理の虜になってしまった。

｢A。今日のおすすめは？｣

｢今日のオススメはヴォンゴレ！漁師の常連さんがさっき新鮮なアサリと二枚貝を持ってきてくれたの。これでヴォンゴレ作ってくれって。まだ少し貝が余ってるからメローネに食べてもらいたいなって。｣

本当に彼女はお人好しだ。
その優しさがオレにとっては甘えとなってしまうということに彼女は気づいていないらしい。