酸いも甘いも好きのうち (ページ5)

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その一瞬、時がゆっくりと過ぎたように感じた。

透き通る肌にこの街では目立つほどの黒い髪が風を撫で揺れる。
凛と佇むその瞳と横顔。

本当にそれだけだった。なんの変哲もない、特別な美貌を持っているという訳でもない。ただの女だ。それなのにその一瞬でオレは彼女に惹かれた。

彼女は今まで見た女とはまったくと言っていいほど違った雰囲気を持っていた。

オレは驚きでその場に立ち尽くした。昼近くにもなり、一通りも多いため、肩にぶつかってきた奴もいたが、それも気にならないくらい、オレの頭は彼女の事でいっぱいで、オレは無意識に彼女の後をつけていた。

彼女がどんな女か知りたい。今まで見たことがない女だと一瞬で理解出来るほどの風貌を持っ彼女を知りたい。少しだけでいい。話がしたい。探究心というものが擽られた＿と言っても等しい。ただそれだけだ。いや、そうだと言いたい。

10分程経っただろうか。彼女は1軒の小さなリ建物へと入っていった。

見た目と看板から察するにここはバールだろう。

窓ガラスから、気づかれないように覗くと彼女は髪を後ろで一つにまとめ、手馴れたようにエプロンを身につけた。

その行動からから彼女はここで働いているということが分かった。

辺りを見渡すとここはあまり人通りが多いとは言えない。
きっとあまり儲かっていないのだろう。少し建物が廃れているようにも思える。

その時、カランコロンとドアベルが鳴った。

目が合う。

その一瞬。時が止まったように感じた。

彼女の瞳は、何もかも透き通ったようなものだった。
その瞳の中にオレがいる。目を見開いたオレが。

別にやましい事をしているつもりは無い為焦りとかは無いが、いざ彼女の前に立つと、何を話せばいいのか分からなくなる。無駄に心臓の鼓動が速くなる。

｢…ボンジョルノ。｣

とりあえず挨拶をすることにした。

おかしい。いつもならスラスラと言葉が出るはずなのに、今日は調子が悪いようだ。挨拶の言葉でさえ喉を通るのが難しかった。きっと突然の事で驚いているだけだろう。

｢ボンジョルノ！｣

彼女は目を細めて笑う。
胸の奥がじんわりと暖かくなったのを感じ、オレは頭を傾げた。
何だったのだろうか。さっきのは。

そう疑問符を浮かべているオレを他所に彼女は眉を下げた。

｢その……せっかく来ていただいたのに、すみません。まだお店開けてないんですよ。準備が出来て無くって……｣

｢あ、あぁ。いい。気にしないでくれ…。｣