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「なんでもありません……」
Aはそっと目を逸らした。
「吾輩、昼間は眠ってしまったからのう。嬢ちゃんにはさみしい思いをさせたじゃろう。よおしよし」
いいこいいこと頭を撫でられる。ふわりと甘い香りがして、それについては気分がよかったけれど、いい気はしなかった。大体、そんなことをされて喜ぶ年齢ではない。
「子ども扱いしないでください」
そう言ってその手をそっと払うと、どんな顔をするだろうと思ってちらりとまた仰ぎ見る。
「そうじゃのう。これは失敬」
彼は穏やかに目を細めて笑った。
思えばこの数日、どうしたらこの人を驚かせることができるだろうかとそればかり考えていた。何をやってみたって彼は驚いたりしない。いつだって穏やかに笑っていた。
面白くない人。
Aはすとんと彼の腕へもたれかかった。
先ほど鼻先をくすぐった甘い香りがした。花のように甘く、大木のように落ち着いた香りだ。
Aは本来の目的も忘れて、うっとりと目を閉じた。
「どうしたのじゃ、嬢ちゃん。急に」
少し戸惑ったような声がして、Aはゆっくりと目を開け、それでふふんと笑った。なんだ、この人も焦ることがあるんだ、とAは嬉しくなった。
「なんでもありません」
「あまり年寄りをからかうでないぞ」
いっそう強くなった香りに、Aはまたうっとりと目を閉じる。先ほど頭を撫でた手が今度はそっと背中をなぞる。
月のない夜は、影も一つだ。
終わり
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
