花は咲く ページ31
「ねえ、このドレス、覚えてる?」
Aがくるっと回って見せると、深紅のドレスの裾がふわりと広がった。仕立て直したドレスの裾は少し詰められ、あの時よりいくらか落ち着いたデザインになっている。
「さあ、なんだっけねぇ」
凛月ははぐらかすようにそう言って目を細めた。ちょうど孫娘を見て微笑む老人のように。
Aの仕度が済むと、Aは凛月に手を引かれて母屋へ向かった。会場である鳴上家の別棟で昨日は一晩泊まった。
玄関へ入ると、案内の女中に従って中央奥の大理石の階段を上がる。
薔薇色の絨毯も懐かしかった。
自分の育った家なのに案内されるのは、なんだか擽ったいような気持ちがする。
パーティーの会場はこの家の中で一番広い、2階の広間だった。
入っていくと、既に親族を中心に30名程の人がめいめいにお喋りをしたりお菓子を食べたりしていた。
嫡男の婚約祝いだけあって、Aが顔を知らない親戚の方々も今日は沢山いらっしゃるのだろう。
男の人はみんな同じような燕尾服を着ているけれど、女の人は青や黄色や、紫や、色々な色のドレスに身を包んでいる。
Aのように既婚の人が多いので、出会いの場である舞踏会などよりは、色やデザインは主役より何歩か引いて落ち着いた雰囲気だ。
凛月と一緒に、部屋の奥でにこにことやってくる人に挨拶をしているお兄様の元へ歩いていく。
「ああ、これはこれは、朔間様。遠路遥々、ようこそお越しくださいました」
前の人との話がひと段落ついて、こちらに気づいたお兄様がしなやかな動作で丁寧にお辞儀をした。胸に主役の花がついている。
後ろで一つに結った生糸の束のような長い金の髪がするりと背中を滑った。
「本日はお招きいただきありがとうございます、義兄様。ご婚約、おめでとうございます。まことに好ましいご縁組と存じます」
凛月も凛月で恭しくそう述べた。まるで借りてきた猫のよう。
Aはその間黙ってにこにこしている。お兄様のお隣に佇んでいる司くんのお姉様を見上げると、にこりと天使のように微笑まれた。
くるりとカールした彼女の赤色の髪がAは好きだった。
周りより一等華やかなピンク色のドレスに身を包んだ彼女が今日のいちばんの花だ。
まさか自分がこのお姉様より先に結婚することになるとは、幼い頃には全く思っていなかったけれど。
「お兄様、お姉様も、おめでとうございます」
Aはいちばんの笑顔でそう言った。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時:2017年7月29日 16時