同じにおい ページ29
「はあ……」
Aはまた、らしくないため息をついていた。
侍従の目をかいくぐってするりと家を抜け出したAは、村の見える丘にぼんやりと座っていた。
王都は今日ものどかだった。お城の南の農民たちはみな汗を流して働き、西にある石造りの街では商人たちが行き交っている。
農民は農民として生き、商人は商人として生き、羊は羊として生きている。
Aは、貴族の娘として生きるのだ。
他の人たちは、自分の生き方に疲れたりしないのだろうか？
――いや、気づかないのだ。ほかの生き方を知らないのだ。ほんの二日前のAがそうであったように。
「お前、難しい顔してんなあ？ はっはっはっ 笑え！ 天高く吠えろ！ そうすれば宇宙まで届くから！」
気づけば、ケラケラと笑う燃えるようなオレンジ色の髪の男がいた。男性にしては小柄で、Aよりいくらか年上なようだ。
子供のような仕草で天を指さしている。
帽子から足の先まで、お召し物が高そうだ。
「あの、失礼ですがどちら様ですか？」
「名前なんて人がつけたもんどうだっていいだろ！ それより笑え！」
「名前なんて人がつけたもの……そうね」
Aは妙に納得してほほ笑んだ。隣の国で起こったという、身分を超えた男女の恋愛の噂話を思い出していた。名前など関係ないと。その二人は結ばれる前にお互いを追うつもりで死んでしまったそうだけれど。
「むう、もっと笑え！ 仕方ないなあ、俺が特別に宇宙の挨拶を教えてやる！」
「うちゅう？ の挨拶？」
Aは首を傾げたが、彼のAの疑問に対する説明はなかった。
「うっちゅ〜☆ って言うんだ。これからおれを見かけたらそう挨拶してくれよなっ」
「うっちゅ〜？」
Aが取りあえず真似をすると、彼は満足げに笑った。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
