【二章】魔物の夜 ページ23
「A、わかっているでしょうね」
お母様は出発前の娘に何度も確認するようにそう言った。
ええ、もちろんよと、Aは穏やかに微笑んでみせた。
お母様の言いつけに、Aはいつだって逆らわなかった。
お姉様が一度だけ反抗したことがあって、ひどく叱られていたからだ。
今日の舞踏会だって、お母様に言われた人を順に目で追っている。
Aは愛想がよかった。馬に会おうと牛に会おうと隷属民に会おうと、彼女は自然と微笑みかける。
その時もそうだった。
お嬢さん、私と一曲いかがですかと、老人のような声で話しかけられても、Aは驚きもせずに微笑んでいた。
その名前を聞いて、Aは少し驚いたが、顔には出さなかった。
吸血鬼と噂されている殿方だった。世間のそういう噂に疎いAでも知っている。
触れたらひやりとしそうな程白い肌に、夜の闇を引き込んだような長い黒髪。瞳と唇は血のような赤色で、目が合うとさすがのAも背中がぞくりとした。
まるで死んだそのときのままの姿を何百年も保ってきたみたい。
人が彼を吸血鬼だと言うのもなんなく理解出来た。
(でもどうしてこんな所へ？)
会話もダンスも、全然頭に入ってこない。
不思議がっておるようじゃのう、と、朔間零は穏やかに笑った。
ちょうど孫娘を見て微笑む老人のように。
青年のようで、老人のようだ。
Aは益々不思議に思った。
吾輩かて嬢ちゃんと目的は同じ……吸血鬼とはいえ独り身は何かと寂しいからのう。
ダンスの上手な方だった。既に何人かと踊って少し疲れていたAだが、同じ調子で踊っているはずなのに苦がない。
そばへよるとなんの香りなのかはわからないけれど、鼻に心地よいとってもいい匂いがした。
結婚の一番の目的は相続のことだ。
子供がいなければ家は絶えてしまう。特に彼のような嫡男はそうだ。彼は敢えてそういう言い方をしなかった。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
