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若草色の飾りの少ないドレスの膝に柔らかな綿の白布を敷くと、彼はごく自然な動作でそこへ頭を下ろした。
重そうな瞼が降りていく様子を見ながら、Aは猫をあやすような動作で彼の柔らかな髪を撫でた。
すうすうと規則正しい寝息を立て始めるのに何秒とかからなかった。
どうやらAの新しい生活は彼の寝顔を眺めることが中心になりそうな予感がした。
朝は散歩をして、領民たちと交流をしてみたいなどと思っていたのに、今のところそれは叶いそうにない。Aも何だか眠くなってきて、目を閉じると心地良く睡魔に連れ出された。
目が覚めると夕日も沈む時間だった。いつの間にかこんな時間になっていたらしい。膝に寝ていた家主の姿はなく、使用人が起こしにやってきた。急いで着替えて食堂へ向かった。
「おはよう、お嬢さん。ふふ、意外とお寝坊さんだねえ」
食堂には既に亭主が椅子に座っていて、どうもA待ちだったようだ。
夜の闇のような紺色の上着に、フリルをあしらった真っ白なシャツ。喉の奥を鳴らすようにして怪しく笑うその姿は、昼間とは違う、意識のある美しさがある。
血を溶かしたような紅い瞳にはっきりとした光が宿り、燭台の向こうから不意にそれを向けられるとぞくっとしてしまう。
「お待たせしました」
果たしてその口で人にお寝坊さんだねえなどと言えるのか、その是非は置いておいて、ひとまず待たせたことは申し訳なく思った。
食事はサラダと、パンとスープに少しの肉。この国では貴族でもそんなに豪華に食事をとる訳ではない。王都にいた頃の食事からすると、少しばかり質素だと思えたが、パンはやわらかい小麦のパンで、温かく、バターもついてくる。
人が1人寝転がれそうな長さのテーブルの端と端で、大した会話もなく今日２度目の食事をした。
「お嬢さんは夜は何をするつもり？」
食事が終わると彼はそう問うた。使用人のある前では、何故かAのことをお嬢さんと呼んでくる。
歳はAより少し年上なだけでそう大きく変わらないはずなのに、百年を生きてきた吸血鬼のような意識を持っている彼は、Aは若い女の子で、自分は年寄りなのだと言っていた。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
