『動物園』 ページ13
「……くれぐれも落っこちないでよね」
凛月の操る真っ白な馬の後ろの方へ乗ったAに、凛月はそう言ってきた。日も傾き始めて、いつもだったら凛月の起きる時間だろうか。
「あなたこそ、落とさないでよ」
Aは帽子を被りなおした。
普段解きっぱなしの髪はくるりくるりと一つに纏め、ふわりと薄いベールに覆われている。
我ながらかわいげのない言い方だと、言ってしまってから後悔した。
人間の若者のくせに生意気だねえ、と思った通り凛月も渋い顔をした。
元来末っ子気質のAはこういう時にうまい言い方を知っているはずなのだが、どうも最近はそのあたりの調子が良くなかった。
凛月が地面には絶対に降りるなと言うのでおとなしく従うことにするが、なぜなのかは分からない。
王都にいたころは、『お姉ちゃん』が相手をしてくれないときにこっそり忍びだしては王都の農村に出て行って、平和に暮らす農民の子供を眺めていたのに。
「ああ、なにか騒がしいわね……」
Aの耳が、凛月の目が騒ぎの起こっているのを捉えたとき、Aはいきなり顔にぽいと布を投げられた。
「ああ、何も見えないじゃない」
「見ないで」
何時になく強い口調にAは驚いて視界が布の白色のまま、払うこともできないで固まった。
凛月は、大きなため息をついた。これだから気が乗らなかったのだ。
領民達が騒ぎを起こしていた。
どうせ誰かが『ルール』に違反して、そいつを吊るしあげて憂さ晴らしをしているとか、そういうくだらない事だ。
若い男の農民が引き摺られ、殴られてぼこぼこにされている。あれはまだマシなほうだ。
人族は下等だねえ、お嬢さん。だから好きなんだけど。
普段なら村長や村の重役が報告に来るまで放っておくんだけど、さすがに女性に見せるには色々とショッキングだから、やめさせないとねえ。
「藤原さん、あれ止めてきて」
「かしこまりました」
前を走っていた執事の藤原さんは無駄のない動きで芦毛の馬を走らせ、騒ぎの中へ向かっていった。
「……あの、何が起こっているのかしら？」
「あー、愚かな人間の子たちが、ちょっと騒ぎを起こしてる。見た目があれだから女の子には見せられないねえ」
凛月はオリーブ色のジャケットの袖で、額にうっすら滲んだ汗を拭った。
「そう……」
ハンカチを投げられたままの格好で大人しくしているAを見て、凛月はほくそ笑んだ。
こういう時は飼い主に従順で、いい子だよね。
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さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (
レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さなえ@Ｌｏｖｅ伊織 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時：2017年7月29日 16時
