適当に言ったら本当になった【江口拓也】

01*° ページ3

あの日、いきなり結婚は無理だと話し合って、えぐとは付き合うことになった。


あれからもうすぐ1ヶ月になる。


正直、恋人らしいことは全くしていない。


手さえ繋いでいない。


本当に付き合っているのだろうか。


えぐも冗談で言ったのだろうか。


聞きたいのに、何故か聞けなかった。


えぐとは、同じ事務所で同じ年齢だったから話すことはあったけど仲良くは無かった。


仕事も最初はお互いモブばかりだったけど、名前のある役をもらえるようになって共演が増えた。


共演が増えると、一緒に飲みに行く回数が増えた。


そして気付けば、私が彼氏に振られる度にえぐを呼ぶようになった。


まさか付き合うことになるとは思ってもいなかった。


『どうなるんだろ』


そう呟いた。

仕事へ向かうと、現場には既にえぐがいた。


｢おはよう｣


『おはよー』


普通の挨拶。
いつもならこれで終わるけど、今日は違った。


｢金曜空いてる？｣


予定を聞いてきた。
金曜日は、私たちの1ヶ月記念日だ。


『夜なら空いてる』


｢ん、美味い店予約しとく。｣


『ありがとう、楽しみにしてる』


会話終了。

お互い台本に目を向けた。

記念日とか、ちゃんとやるタイプなんだと知った。

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