黒鳥の愛【usss】 (ページ36)

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21話ページ36

こうやって夜に屋敷を歩くのは、彼らにリボンを渡した日以来かもしれない。

絶えず私の頬を流れる涙を止めてくれる人を求めて歩き回る私は、まるで幽霊のようにおぼつかない足取りをしていた。

蝋燭の灯りしか無いこの屋敷は、薄暗くもどこか情緒に溢れている。

目当ての部屋について、しばらく躊躇ってしまった。
彼は起きているだろうか。
なにせこんな深夜だ。起きていない可能性も高い。
けれど、もし。もし、起きていたとしたらそれは＿＿。

「お嬢様……？」

音を立てて開いた扉から聞こえてきたのは、優しくも明るい声。
自分が恐れていた事態に、さらに涙があふれてしまった。

「え、なんで泣いてるん？」

「坂田……」

部屋へと私を促し、腕や背中をさすり、最後に私の頬に手を添えた。
涙を必死に拭いながら私を見つめる彼は、とびきり優しい顔をしていて。

「お嬢様、こんな夜にあかんよ？部屋から出たら。
何してたん？」

「坂田も、どうして部屋から出ようとしたの？」

逆に質問を投げ掛ければ、気まずそうに目を逸らす坂田。
口籠もった彼に、私はさらに言葉をかけた。

「何かを探していたのね……あなたが探していたのはこれでしょう？」

右手に握りしめていたものを彼に見せれば、目を見開いた。そしてくしゃっと顔を歪める。

「なんでお嬢様がそれを持ってるん？」

「部屋に落ちていたの。あなたが座っていたソファの上にあったわ」

坂田が来る前は無かったもの、と付け加えれば坂田は私から視線を逸らした。
それが自分が持っていたという肯定のように思えてしまった。

「私もあなたに聞くわ。どうしてこれを＿＿お母様の指輪をあなたが持っていたの」

私の手のひらの上で輝く紅玉の指輪。
それは間違いようも無く、私の母のものだった。

「僕もそれを拾ったんよ」

「どこで？」

「談話室」

ひゅっと息を呑み込む。
ああ、これは。
疑うまでも無く、彼が母を＿＿。

「僕を疑ってるん？お嬢様」

いつの間にか目の前まで迫っていた坂田に驚き、思わず後ずさると、その分だけ彼も詰め寄ってきた。

「信じてはくれない？」

「……お母様が亡くなる前日に、談話室に入っていく候補者を見かけた人がいるの」

その言葉に強張った表情を作る坂田。
途端にその顔は悲しみに染まり、キラッと何かが視界の端に映る。

「ほんまに残念やわ」

坂田の右手に握られていたそれは、銀色に輝く小刀だった。