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20話 ページ35

持ってこられた朝食に口をつける事なく、1日を始めることが多くなった。
そんな私を候補者の彼らは心配そうに見ていることを知っている。


(今何かを食べられるほど、私の心は強くはないのよ)


仕事をしていて思う事はそんなこと。
自分の弱さに涙が溢れそうになるけれど、強くありたい私には素直に涙を流すと言うことができなかった。


今日も今日とて、当主代理として仕事をこなす。
レイラの言ったことに目を逸らしてはいけないけれど、そればかり気にしてもいられなかった。


「お嬢様、僕お腹すいたんやけど」


「そう。そこにクッキーあるわよ」


「僕1人じゃ嫌や!」


「うっ……!坂田、重いわ…」


ずしっと頭に感じる重みに呻けば、坂田は笑った。
いつも楽しそうな彼に、思わず一緒に笑いそうになるのを堪える。


「ご飯ちゃんと食べへんからやで?僕を支えられるくらいになってや」


「ちゃんと食べたとしてもあなたを支えられる自信が無いわ」


「ほな、ちゃんと食べよか!」


「ちょ、ちょっと!」


無理やり椅子から抱き上げられ、ソファに連れて来られる。
ここまでされてしまったら少し付き合わないとまた同じことをされてしまうだろう。
仕方なくクッキーを口に運べば、香ばしい香りが広がった。


「美味しい……」


「疲れた時は甘いもの、やで!」


「私、疲れているように見えたかしら?」


そういえば困ったように笑う坂田。
言葉は無くとも、その表情を見ればその通りだったのだと気づいた。


「ごめんなさい。今日はお仕事お休みにするわ。
ご飯もちゃんといただくから」


「ほんまに!!」


ガタッと音を立てながらソファから立ち上がる坂田に目を丸くする。


「ええ、だから少し落ち着いて?」


「えへへ、ごめんなさい」


しばらく共にお茶をして、2人で本を読んだりお話をしたりして過ごした。
センラが夕食を持ってきたことによって、その時間は終わってしまったけれど、私の心は随分と軽くなったと思う。


「え……」


思わず声を出したのは、就寝準備を終えて室内を見回していた時。
私の視界に入ったそれは、本来、ここにあるはずのないもので。


自然と涙が溢れて、膝から頽れた。

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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時

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