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「お母様が亡くなった場所をご存知?」
レイラの突然の問いに首を振れば、鼻で笑われた。
彼女はどこまで行っても私を馬鹿にしたいようだ。
「談話室よ。この屋敷の隅にある、ね。
そこの彼がお母様が亡くなる前日に、たまたまその談話室付近の渡り廊下を通ったそうよ」
レイラが示したのはリボンが巻かれた彼だった。
静かに頷き肯定を示す。
「だからなんだと言うの?お母様が談話室にいた。ただそれだけでしょう?」
嫌な予感がする。
この屋敷は、その場所の管轄が決まっている。
彼女の言う談話室の管轄は私たち、つまりは私の候補者たちの管轄になる。
昼間は出入り自由な場であっても、夜になれば基本的には管轄者たち以外は立ち入りが禁じられるため、管轄者本人、もしくは管轄者が許した者しか利用する事は不可能な仕組みになっていた。
「そうですわね。お母様が談話室にいただけですわ……深夜にね」
ガツンと頭を殴られたかのような衝撃が走った。
志麻に目を向ければふるふると首を振っている。
つまり、志麻はこの件に関して認知していないことになる。
「お姉様の候補者が招き入れたのではなくて?
そうそう、彼はこんなことも言っていたわ。
誰かが談話室に入っていくのを見た、と」
呼吸が自分でも荒くなっているのが分かった。
私の候補者の誰かが、母を殺害した?
それも私には内密にして、私には悟らせないようにして。
「あは、でもこうも考えられますわね。
お姉様が候補者に命令して、お母様を殺した、なんて」
バシャ
と水が溢れるような音がしたのはその直後だった。
そちらを見れば、花瓶の水を被ったレイラの姿と呆然とする彼女の候補者。
そしてまさに今水をかけました、と言う体勢の志麻がいた。
「何するのよ!!」
「お嬢様、走って!」
レイラの怒声を背中に、志麻に手を取られて走り出す。
適当に入った部屋で、志麻は何も話す事なく私に寄り添ってくれていた。
「……志麻、レイラの話は本当なの?」
「分かりません。俺は何も知りませんでした」
「私は、誰を……信じればいいのかしら」
「……お嬢様はお嬢様を信じてください。他の誰も信じなくていいから」
そう言って、志麻は私の肩を抱き締めた。
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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時