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「候補者が正式に決まったって言うことは、彼らの中から“選抜”をするんだよね?」
真冬の何気ない言葉に体が硬直する。
今の私にとって1番触れられたくない話題だった。
「……どうしたの?」
「真冬、この家は少しおかしいとは思わない?」
私の突然の疑問に彼は首を傾げた。
例えば?と先を促す彼に話を続ける。
「例えば……候補者が4人いること、とか」
「うーん。でも昔から続けられていることだから、あんまり疑問に思ったことないかもしれない」
そう、と呟く。
自分だけがおかしいと感じてしまうんだろうか。
それはまるで、私だけが世界から取り残されているような、そんな寂しさがある。
「やっぱり今日は様子がおかしいよ?屋敷に戻ろ?」
私の顔を覗き込んで心配気な顔を作った真冬に手を取られる。
優しいその手と、これから国を担う凛々しい彼を見て、今日私がしなければいけないことを思い出して胸が痛んだ。
「真冬」
「なあに?」
「あなたはこの国が好き?」
「うん。大好きだよ」
眩しいほどの笑顔を向けられて胸が締め付けられた。
思えば私の初恋は、この可愛らしくもかっこいい幼馴染だったなと思い出す。
「私は、あなたが大好きだったのよ」
「え?」
驚いた顔の彼を引き寄せ、その耳元に言葉を流す。
胸を押して突き放した彼の顔は、きっとこれから先忘れることはない。
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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時