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13話 ページ23

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今夜は月が綺麗だ。
大きくはないから、あまり明るくもないけれど。
透き通っていて、どこか冷たそうで、だけど温かみもあるその存在はまるで自分が愛する彼女のよう。


カタっと部屋の扉の外で音がなったのはそんな時だった。
ベッドに腰掛けて月を見上げていたが、音がすれば向かわないわけにもいかない。


そっと扉を開けば、勢いよく何かが抱きついてきた。


「おわっ!……お嬢様?」


こんな遅くに男の部屋を訪ねてはいけません、とかそもそも使用人の塔には入ってきてはいけません、とかいろいろ言うことがある。
けれども何より先に気になったことは、彼女の頬が濡れていることだった。


「……ぅ、うぅ」


子供のように泣きじゃくる自分の主人を必死にあやす。
どうすればこの涙を止めることができるのか、どうすれば心を落ち着かせてあげられるのか見当もつかなかった。


「ごめ、なさ……っ!本当に、ごめ」


けれど何故か謝り続ける彼女を見続けることができなくてぎゅうっと腕の中に閉じ込める。
しばらくして落ち着いたのか、呼吸も安定してしゃくり上げることもなくなった。
涙は継続して出続けていたけれど、普段から泣かない人だ。
たまには目一杯出してもいいだろう。


「……知らなかったわ、私。こんなのおかしいとは思っていたけれど」


それから彼女は話し始めた。
この屋敷の恐ろしくも悲しい話を。
自分たちにとっては何をそんなことをと思うが、優しいこの人は違うらしい。


「おかしいわ、やっぱり。ねぇ、本当の“幸せ”って何なのかしら」


大好きな黒い瞳が虚ろに揺れる。
涙でキラキラして見えるのは、その長いまつ毛なのか。


おかしい、と呟く彼女を見る。
焦がれ続けていた人の言葉は自分にとっては絶対で。
彼女がおかしいと言及すれば、この世の中の何であってもおかしいと錯覚してしまう。


ならば排除するべきなのだろうか、なんて乱暴な考えが頭をよぎるが、美しい黒鳥はそんなことを望まないだろう。
自分に呆れかけたそんな時、不意に呟かれた言葉に目を見開く。
そして知らずに自分の口角が上がっていることに気づいた。


あぁ、自分はなんて愚かな男なんだろう。
彼女を手にするためならば、どんなことでもやってのけてしまえるなんて。


彼女の言葉が再度頭に響く。









「すべて消えてしまえばいいのに」

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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時

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