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9話 ページ18

お披露目が終わってしまえば、特にすることはない。
いつもと変わらない日常が始まるだけだった。


「ねぇ、お嬢様。僕めっちゃ暇なんやけど」


そう言ったのは私のティータイムに付き合ってくれていた坂田。
口いっぱいにクッキーを頬張っておいて何を言っているんだと呆れてしまう。


「気持ちは分からなくはないけれど、まずは口の周りのクッキーを取りなさい」


「ん!」


ずいっと私の方に顔を寄せたのは、取れという意味だろうか。
思わずふふっと笑い、一つ一つ丁寧に取っていく。


「お嬢様は街に出かけたいとは思わへんの?」


手首に巻かれた黒いリボンをいじりながら、坂田はそう言った。
上手く巻けていないその不恰好なリボンに、思わず目を細める。


「……お嬢様?」


「あ、なに、かしら」


私の視線がリボンに向かっていたことに気づいていたのだろう。
坂田はふんわりと笑うと、そのリボンに口付けた。


「これ、可愛いやろ?」


「……ええ、あなたによく似合う」


うれし、なんてはにかむものだから謝罪の言葉が喉に戻ってきてしまった。
もしかして、と彼に目を向ける。
この可愛らしい私の紅は、私にごめんなさいを言わせたくなかったんじゃないかしら。
変なところで仕事ができてしまう彼に、私は微笑んでいた。


「お嬢様、なんか嬉しそうやね?」


「ふふ、そうね」


「お嬢様、街に行く?」


「そうね」


私が肯定したのが意外だったのか、坂田は目を丸くした。そしてすぐにその目を細める。


「ほんまに!!嘘やない⁉」


「嘘なんてつかないわ。支度を始めましょうか」


私が言い切るよりも早く坂田は立ち上がり、私の腕を引っ張って立たせた。
不意に近くなったその距離に驚きのあまり息が止まる。


「あ、」


「可愛くなりましょうね、お嬢様」


私の輪郭を撫でながら、坂田は嬉しそうにけれど艶やかに笑った。

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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時

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