8話 ページ16
靴音が響く長い廊下を蝋燭の灯りを頼りに進んでいく。
パーティーを抜け出した時の記憶が無い。
きっと私の彼らが上手くやってくれたに違いないのだけれど。
目的の部屋にたどり着いて、息を整える。
右手に握りしめた黒いリボンは、すでに一本までに減っていた。
ドアノブに手をかけようとした時、それと同時に内側から扉が開かれた。
「……あら、待っていてくれたの?」
「はい。俺の部屋に来るのは最後だろうと思っていたので。読みが当たりましたね」
柔らかな口調と私が焦がれる蜂蜜の瞳。
センラは私を部屋の中に促した。
「ご気分はどうですか?」
「平気よ」
「んふ、俺にまで嘘つかんくてええよ?」
黒いベールをそっと外され、赤くなってしまった私の目元に手を添えた。
困ったように笑う彼の顔を見て、だから今日、センラの元には来たくなかったのに、なんて悪態をついてみたり。
「赤くなってる。ちゃんと冷やしたん?」
「……あなたにリボンを届けに来たわ」
センラの質問を流して、脈絡のない会話を始める。
リボンを届けに来たことなんて見ればすぐにわかることなのに、それに触れないあたりやはり彼の気遣いはすごい。
「お待ちしておりました、お嬢様」
胸に手を当てて私に礼の形を示すセンラ。
その明るい髪にそっと触れる。
ぎこちないとは思うものの、髪を痛めないよう慎重にリボンを結んだ。
「こんな縛り付けるようなこと、私は望まないわ」
「縛り付ける、ですか」
私の微妙な顔とは対照的な笑顔のセンラ。
センラに限ったことではなく、他の候補者3名も似たような顔をしていた。
「俺は嬉しいんやけどね。あなたのものだっていろんな奴に見せつけられる」
彼らの狂っていると言ってもいいほどの私への執着。
そんな彼らにとってリボンを与えられることは本当に嬉しいことのようだった。
候補者には主人からリボンを与えられる。
それは正式に候補者になった者にしか与えられないもので、主人の所有物になったという証でもあった。
「そう、それならいいわ」
くるっと背中を向けて、扉に手をかける。
早く部屋に戻らなければ。
そうでなければ、彼らの自由を奪ってしまったと言う罪悪感で私が押し潰される。それに__
「ちょっと待って?」
そう響いた声はすぐ側で。
扉にかけた手に、もう一つの手が重ねられた。
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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時