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「お姉様、彼を頂戴」
そう言ったレイラの言葉にすっと体温が下がった気がした。
彼女は一体何を言っているの?
「私、候補者は据えているけれど、まだリボンを彼らに与えていないのよ。まだ間に合う。
私、この人が欲しいわ。あなた名前は?」
「坂田、ですよ。レイラ様」
「苗字じゃないわ!下の名前」
頑是ない子供のような態度に呆れる。
坂田以外の候補者3名は、その光景を大人しく、けれど冷たい目で見つめていた。
「レイラ様。僕は下の名前を誰にも教えていないんです。唯一明かしたい方は、この世に1人だけですから」
ぱちっと丸い瞳と目が合う。
あら、私だったのね、と眉を上げれば坂田は苦笑した。
そんなやりとりを見ていたからか分からないけれど、レイラはあからさまに不機嫌顔を作る。
これだけやんわりと断られてしまえば、もう深く誘えないとでも思ったのかもしれない。
「……別にどうだっていいわ。だけど、私の候補者の方がやっぱり優れているわね」
「まだ見た目に気を取られているのね」
坂田のことといい、私の候補者を舐めすぎではないかしら、とふつふつと腹の中が沸騰しそうだった。
そのほんの一部を表に出してやれば、レイラは面白くなさそうに反応を返してくる。
「当たり前ではなくて?
私たちの家系は代々、白銀の髪に紅の瞳を持つのですよ。ならば当然、それと似た方でなければ釣り合いませんわ」
それが当然と彼女は思っているのだろう。
現に、代々の当主はそのような見た目の人を相手に選ぶことが多かった。
「……見た目だけで判断するなんて愚かよ」
「なんですって……?」
「私の候補者は見た目はもちろん優れているわ。
瞳も髪も、全員が全員違うからこそ映えるし、美しいと私は思うの。
それに、私が彼らを候補者にしたのは、彼らが優秀で、この家を共に守っていけると私が判断したからよ。
見た目だけ良くても何もできない無能な相手なんて、私には必要ないもの」
ベール越しにでもわかるレイラの真っ赤な顔。
私の言葉は彼女にとっては侮辱だ。
見た目だけしか見ていない、無能な者をそばに置いて満足していると暗に言って退けたのだから。
「何よ、それ……っ!
なんでお姉様が次期当主なのよ!どう見ても私の方が相応しいじゃない!」
「レイラ、落ち着いて。
私が次期当主に選ばれたのはお父様と血がそうさせたのよ」
そうでなければ、誰が好き好んでこんな地位に立つのだと私は視線を落とした。
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作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時