6話 ページ11
坂田に連れられてやってきた場所は大広間の前。
見上げるほど大きな扉の前には私の大切な使用人、もとい候補者である3人が立っていた。
「坂田、遅いぞ」
「候補長、申し訳ございません」
先ほどの砕けた話し方とは比べ物にならない坂田の態度に、素直に驚く。
彼は抜けているところも多いけれど、こうやって切り替えができると言うことはかなり優秀だ。
「お嬢様、お手を」
右手をうらたに、左手をセンラに重ねる。
これは“内定”を下した順番が関係していて、志麻と坂田は私の腰から垂れている薄く長い布を、床に引きずらないように持ってくれている。
時間になり、大広間の扉が開かれれば賑やかな合奏が流れ、盛大な拍手に包まれた。
一歩広間に足を踏み入れれば、ちらっと見えた拍手をする人の顔。
いつものことながら、黒に包まれた私を蔑むような忌避するようなそんな目を向けてくるものがほとんどだった。
(やっぱり望まれていないのね、私が次期当主であることが)
お披露目をするということは同時に、次期当主のお披露目でもあるということだ。
こんなにも望まれていないお披露目はきっと、史上初ではないだろうか。
覚悟していたことだが、私を見る目があまりにも冷たくて、自然と顔が下に向く。
そんな時、キュッと右手を握られそちらを見れば、うらたがこの世の中で最も愛おしいものを見るかのような、そんな目で私を見てくれていた。
(……長年仕えてくれているだけあるわね。私の気持ちに気づいてくれていたなんて)
彼らはまだ私の使用人だ。
ならばその彼らに恥じない姿を見せなければ。
もう一度背中に力を入れて、前を見据える。
そうすれば、なんだか周りの目が変わった気がした。
私が次期当主であり、4人の候補者の主人である。
そう思わせるには、まずは自分で強く思わなければ。
真正面に用意された階段を登り、ステージ中央に立つ。
私の後ろには候補者の4人が立っていた。
純血の者しかいないこの広間はそんなに人が多くない。
ベールを外し、お腹の底から声を出した。
「今ここに、うらた、センラ、志麻、坂田の4人を候補者に任命します」
140人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なつの | 作成日時:2021年6月9日 0時