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彼の名前を見たとき、背中がひんやりと冷たくなったような気がした。
【有馬 貴将】
プルルルルルル…
コール音は私の気なんて知らず、鳴り続けている。
…ええい、もう出ちゃえ。
「もしもし」
自分の声が、少し上ずっているのが自分でも手にとるように分かった。
「…あぁ、もしもし。A」
彼の声音は昨日と1ミリも変わってはいなかった。
そうか、昨日か。
新鮮なことだらけで、昨日から今までの時間が、一週間にも、二週間にも感じられている。
「どうしたんですか、こんな時間に」
十二時二十五分…普通ならば、彼はもう局に行き、地下にでも潜っている時間だった。
まさか、休みだろうか。…いやいや、そんなもの。彼にあるはずがない。
「…寝坊した」
その有馬さんの絶望的な状況に、私は耳を疑った。
「本当ですか?大変じゃあないですか!」
彼が怒られるのは確実だろう。…宇井準特等に。
部下に怒られる、上司って日本のどこを探しても、多分有馬さんくらいではないだろうか。
「お願いだ、A。朝、電話はしてくれないか。頼む」
そして、想像通りのお願いをされる。私は、いつもの決まり文句を言う。
「無理です。目覚まし時計セットして下さいよ」
「…電話のコール音じゃないと起きれない」
___驚く程天然で、
「じゃあ、他の人に電話してもらってください」
「…そんなの頼める人A以外にいない」
___どこまでも、胸の中が読めない。
「目覚まし時計の音を、電話のコール音にすればいいじゃないですか」
あぁ、言ってしまった。私の中にじわじわと後悔が広がっていく。
「…そんなこと出来るのか?」
「出来ますよ!宇井さんに聞いてみてください」
きっと彼なら詳しいだろう。設定がおかしくなってしまった時、一度彼に助けて貰った事があった。
「…分かった、聞いてみる。ありがとう、A」
「いえ、…」
もう、彼にかける言葉は見つからなかった。
「それじゃあまたね、A」
「…あ」
ツーツーツー
【会話が終了しました】
その文字が、画面に大きく映し出された。
三分三十秒。
たった、これだけだったんだな。
何かを期待してしまっていた自分がいることに、今更気がついた。
目頭がふいに熱くなる。
いやいや、泣いちゃ駄目だ。…今は、捜査の途中なのだから。
一人で無理やり、作り笑いをしもう一度、あんていくの取っ手を引いた。
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アリス - シロナとクロナって書いてありますけど、ナシロとクロナじゃないですか??(・_・;? (2018年11月9日 16時) (レス) id: 9ad0b945de (このIDを非表示/違反報告)
YUUto1005 - 篠原さんの財布がー (2018年8月14日 9時) (携帯から) (レス) id: 9e44ee148d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アイスゥ | 作成日時:2018年3月27日 12時