46.キミは特別 ページ46
「お疲れ様!」
楽屋に入ってきた四人に声を掛けつつ、綺麗なタオルと水をパパパッと渡すのももう慣れたものである。
例のごとく半裸で汗を拭き出す漣くんと、自分よりも先に眼鏡を磨き出す七種くんのことはなるべく視界から避け、一番の安全圏である凪砂さんの隣でうちわを仰ぐのもいつも通り。
「Aちゃん!僕今紅茶が飲みたいからついてきて欲しいね!」
いつもの通り……………じゃ、ない。
そんなこんな、幼馴染に連れられるまま、何処にあるのかも知らぬ自販機を目指してひたすら歩く。
……結構歩いている割に全然辿り着かないじゃんよ。
そう思って声を掛けようとした瞬間、日和くんはくるりと此方を振り返る。
「ねえAちゃん、実はここ自販機なんてないんだよ」
「はい?」
「そもそも僕は自販機の紅茶なんか飲まないね」
「はい???」
そう無邪気に言い放った日和くんに戸惑いつつ、飲む気が無いのなら早く戻ろうよと踵を返す。
けれど、それを阻むように彼の手が私に伸びてきて、
その手は流れるように私の腰を抱きしめた。
「ッちょっと、日和くん」
「もしも」
「もしも僕が、もっと早く自覚していたら、変わった?」
「……え?」
「もしも、さっき僕がキミを呼びに行っていたら、Aちゃんは怒らずにステージに来てくれた?」
訴えるような声音に黙り込んでしまう。
段々と嗚咽が混じっていく彼の声に酷く罪悪感を抱いてしまうのは、彼の天性の才能なのか、昔から私が彼を甘やかし過ぎていたせいなのか。
……わからない、けど。
「…きっと私は、最後には日和くんを選ばなかったよ」
「ッ弟、だから?」
黙って首を横に振る。
それで日和くんが救われたのかはわからないし、もしかしたらそれもまた苦しいのかもしれない。
けれど、それ以降彼は、何も喋らずにただ私を抱きしめるだけで。
「Aちゃん、好き。ずっとずっと大好き。」
「……うん、知ってるよ。きっと、誰よりも知ってる。」
ぐずる日和くんの背中を優しく叩けば、彼は更にぐすりだす。…弟扱いするなとか、前まではそんなこと言わなかったくせに。
「私も日和くんが大好きだよ」
きっとその好きには食い違いがあるんだろうけれど、
それでも、私がキミを大好きなことに変わりはないのだから。
「…日和くん、もうそろそろ戻らなきゃ」
「もうちょっと」
「…五分だけだからね」
こんなに甘やかすの、キミくらいなんだけどなぁ。
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琉星(プロフ) - ストーリーとても面白かったです!完結お疲れ様でした!Eden好きなのでめっちゃ読み進められました‼︎これからも頑張って下さい‼︎ (2022年4月7日 2時) (レス) @page50 id: 7ae148b3cd (このIDを非表示/違反報告)
結 - ありがとうございます!素敵な作品を作って下さって本当にありがたいです!これからも頑張って下さい! (2021年6月20日 13時) (レス) id: de81aa094a (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - アニメ大好き!九喇嘛朱雀♪さん» そう言っていただけて嬉しいです!私もEdenが一番です笑コメント有難うございます、これからも頑張ります! (2020年3月20日 13時) (レス) id: 22ad2b6ffc (このIDを非表示/違反報告)
アニメ大好き!九喇嘛朱雀♪ - 私、凪砂くん推しなんですけど最高でした!Edenの皆大好きで、他のユニットも好きなんですけどEdenはズバ抜けて好きなんです!他の作品も待ってます!これからも頑張ってください! (2020年3月19日 21時) (レス) id: cca3220680 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 胡蝶蘭さん» そう言って頂けて光栄です…!コメント頂くのも二度目ですよね…?本当にここまでお付き合い下さり有難うございました!また別の作品でお会いできれば嬉しいです。コメント有難うございました。 (2020年3月16日 21時) (レス) id: 22ad2b6ffc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:繕 | 作成日時:2019年8月23日 15時