【おそ松さん】拝啓、愛するファミリーへ【カラ松】

39通目　俺は皆とはもう居られないが ページ39

黒い影が少女の細い首に向けて振り落とされる。目を閉じて彼女はもう目の前に来ている終わりを待っていた。彼女はもう消えたかった。

(……！)
　
だがそれは叶わなかった。
　
　ドンと少女の背中に強い衝撃が走ったのと同時に頭の上を突風が通り過ぎた。目を開けると青いパーカーが目に飛び込み突き飛ばされたのだと少女は理解する。

(勝手に終わろうとするな！)
　
　カラ松は少女の目の沈んだ目を見ながら言った。

(取りあえずここから離れるぞ！)

　少女の返答を待たずにカラ松は少女の手を取る。今は安全が最優先のカラ松は彼女の手を握ることに迷いはなかった。

(……温かい)

　生きていることを表す体温を少女は確かに感じた。その小さな呟きは彼の耳には届かなかった。
　家を出て近くの建物に身を隠す。カラ松は周囲を警戒しながらどうしようかと頭を抱えていた。

“どうする 助けられないのか あの時どうすればよかったんだ”
　
((俺のせいなのか？))

　少女が自分と全く同じタイミングで口を開いた。驚き少女をみると

(なんて思っていますよね。でも残念。これは1から１０まで全部私のせいです)

　嫌なくらい夢が脳裏にこびりついている。それを忘れられるはずがなかった。彼女はそれを私だと言った。だとしたら今までの事が辻褄があう。
　少女をみると少女は微笑み返し話を続けた。

(まだ小さかったけどよく覚えている。凄く怖かった。何も考えられなくて体も動かなかった。そして、助けられた。名前も知らない誰かに)

　ただ黙って彼女の話をきいた。彼女の口は閉じる気配がない。言葉が次々と吐き出されていく。

(横断歩道の血の色も信号機の電子音も雨も赤い傘もテレビのニュースも信二さんの声も死/体も全部全部覚えている。忘れられなくて……忘れてはいけなくて)
　
　まるで自分を罵倒しているようだ。心からの叫びをカラ松は一言一句聞き逃さずに話を聞いた。
(その体験がトラウマで性格も暗くなって。いじ/められて、ジ/殺したの。助けてもらったのに。それであの時助けられなければこんな苦しい思いしないですんだのに。信二さんのせいでジ/殺したんだなんて思って……)

　目を覆い隠すと声を押し殺して泣いた。
馬鹿だ情けないと声を漏らし膝に顔を埋めてしまった。

40通目　どうか俺の事を忘れないでほしい→←38通目　今更そんな当たり前の事に気づいた。

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