【おそ松さん】拝啓、愛するファミリーへ【カラ松】

29通目　トド松 ページ29

今でも初めて会ったときは鮮明に思い出せる。郵便屋は封筒を天に透かす。

(それは確かに俺の大切な仲間達からでした。それは俺は死んでいない、俺の帰りを待っているという内容で。自分の名と差出人の名を忘れないように何度も読み返しました。次第に手紙も霞んでいき、もう読むこともできなくなりました)

　頷くことしかできない無力さが嫌になってくる。彼は今どんな顔をしているのだろうか。ドロドロとした何かがへばりついた様に心が重くなる。

(それなら手紙を届けることもできるんじゃないかとふと思ったんですよ。そしたら案外簡単にできて、神様もまあまあな力をくれたなと思いました。そして成仏できないでいる霊を見つけてはそれを手助けしていきました。勿論成仏できたのはいましたが途中で悪霊化した奴も多く何度も消されかけました。まあ、俺が無力だっただけですが)

　郵便屋は一息ついて俺の方を見る。そして自分の顔を指さし微笑する。

(ほら、俺の顔見えないでしょう？よく言われました。自分の顔まで忘れるようじゃもう成仏なんて出来ませんよ)

　事実これが彼が初めて見せた笑顔だった。それがもっと明るく暖かければどれだけ嬉しかったことか。それは暗く悲しげで、自分を責めているように見えた。
　鴉が日が暮れると告げる。もう為すすべは無いんだよと笑っているようにも聞こえた。
　その時俺の耳を2発の破裂音のような音が征した。郵便屋が手を叩き話を終わらせたらしい。顔にはもう表情は見られなかった。

(さて、俺の話はここまでです。時間とらせてすみませんね)

　羽音を大きく鳴らしながら鴉が飛び立つ。灰色の空が黒く埋め尽くされた。
　俺は顔をうつむかせる。彼の話を聞いている内に目には涙が浮かんでいた。俺に会うまでの郵便屋の気持ちを考えるとなんでこんないい奴が死ななければダメだったんだ……。
　
(俺が……)

　郵便屋がは？ と首を傾げる。俺はぐしぐしと乱暴に涙を拭い顔を上げる。

(俺が成仏する前にお前も成仏させてやる！ 安心しろ！ だから、そんな悲しい顔で笑うな)

　この言葉は俺の決意でもある。俺は絶対にこいつを成仏させる。

(……はぁ〜)

(なぜ？！)

　大きな溜息をつき呆れた顔をされる。でもその顔は少し笑っているように見えた。

(何でそんなにお人好しなんですか……。さ、行きますよ)

　手紙をポケットにしまうと足早にその場を去ろうとする。すぐ立ち上がりその背中を追いかけた。

　

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