2人の短いお話 その3

嫌いな笑顔 ページ5

「北山さん」
「んあ？」




ソファにだらしなく寝そべりながら、気の抜けた声で返事をする主人を見ると、何だかやるせない気持ちになる。

はあ、と軽いため息を吐いて、先程運ばれてきた手紙を渡した。





「なーにこれ」
「伯爵から、先日の討伐の活躍の報奨かと」
「…いらね」





手紙を片手で投げ捨てかと思うと、一瞬にして炎に包まれ灰となって消えてしまった。




貴族や軍に所属する魔法使いが主な一方で、横尾さんのように町医者のような役目を担いながら暮らしている魔法使いもいる。


しかし、北山さんはどちらでもない。


貴族や軍の駒になることを嫌い、人里離れた場所でひっそりと俺と2人で暮らしている。

それでも悪事は見過ごせない性格ではあるらしく、気の向くままにふらりと悪人に裁きを下すこともある。

報奨を頑なに受け取らず、何処にも属することのない北山さんは、等級で言うなら最下位の魔法使いなのだ。





「機嫌を損ねたようでしたら…失礼致しました」





俺がそう言って謝っても、北山さんはまた眠りについて、その目を開けることはなかった。






____








「聞いたよー？また報奨受け取らなかったんでしょ？」

「まあ…そういう人だから」

「貰えるもんは貰っときなよ。だって屋敷の雑用とか全部ガヤがやってるんでしょ？使用人雇えもんね」





信じられなーい。

そう言いながら優雅にお菓子を頬張る玉森は、元々地方の小さな地主をしていた貴族の宮田の使い魔だ。

幸運をもたらすとされる純白のフクロウである玉森のおかげもあり、度重なる幸運であっという間に宮田は高位の貴族に昇格した。


貴族院やら何やらで忙しい主人をよそに、玉森は今日も俺と北山さんの住む屋敷に遊びに来ていた。




「肩書きなんて、何のためにあるのか分からないから」






俺がそう言うと、玉森は目を細めて笑った。





「そりゃあ、実力が伴ってないのに上位の称号を持ってるなんて馬鹿みたいだけど。でも、最初から受け取らないなんてただの驕りでしかないでしょ。

自分はこんな物差しでなんか計れない。俺はもっと強い。そう心で思ってるんだよ。

そんなの弱い奴がすることだね」






…正論、だろうか。


あの、いつも面倒臭そうに半分寝ぼけた瞳で、北山さんは何かに怯えているのだろうか。




「別にミツはそうじゃないかもしれないけどさ。

でも、他人からの評価を受け入れない奴が、自分のことを正しく測るなんて絶対に出来ないよ」

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