2人の短いお話 その3

・ ページ3

「何か、最近の藤ヶ谷さん、前にも増してどんよりしてるよね？」
「やっぱり？私もすごい話し掛けづらい！」




そんな話し声が聞こえて来た。


そりゃそうだろう。

最愛の人が、1年も、はるか遠くアメリカの地へ旅立ってしまったと言うのだから。


目の前に座る藤ヶ谷さんは、そんな事を女子社員から言われるくらいには、参ってるようだった。




____




金曜日。
定時を過ぎ、足早に去って行く面々に挨拶をしながらスマホを開いた。



どうしようかな。
誰かに連絡を取って、そのままホテルに転がり込むのも良い。

適当なバーで新しい子を引っ掛けるよりかは、馴染みの子と体を重ねたい気分だ。




「…藤ヶ谷さぁーん、」






スマホから顔を上げると、憂いの表情でパソコンの電源を消す藤ヶ谷さんがいたものだから、何も考えず話し掛けてしまった。



あ、良いこと考えた。
予定変更。


メッセージの文を消して、スマホの画面を閉じて、眼鏡の奥から俺を見つめる藤ヶ谷さんに視線を移した。




「ん、はい？」
「今日、飲みません？」
「…へ？」





間抜けな声。
真ん丸な目で驚く瞳。


たまに可愛く見えるのは、どうしてなんだろう？






「いや、どうせ暇でしょ？飲みません？」
「あ、え、っと」
「はい、決まりー、はい片付けて、ほら、行きますよっ」




荷物をまとめて先に席を立った。

エレベーターにさっさと乗り込むと、ギリギリの所で藤ヶ谷さんが乗り込んできたから、くす、と思わず笑ってしまった。





「スーパー、寄っても良いですか？」
「え、スーパー？何か買うの？」
「はい。俺の家の近くのスーパー行きましょ」




うん、良いよ。

だなんて従順に付いてくる藤ヶ谷さんの頭を撫でたい衝動に駆られる。



そんなことをしたら、きっとこの人の恋人に一生呪われそうだから絶対にしないけれど。








____

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す