2人の短いお話 その6

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「そろそろ帰るかー」
「ごめんね、飲み足りないでしょ」
「ふは、別に大丈夫」





明日も稽古が早くからあるらしい2人に気を遣って、いつもなら２軒目に誘うところも我慢して会計をしようと財布を取り出した。そのタイミングでスマホを見ると、思わず息が止まった。






「北山、タクシーで帰るでしょ？呼んでもらう？」
「…ちょっと待って」
「あ、このまま誰かと２軒目行く？」






2人の不思議そうな視線が俺を見ているけれど、何と返事をすれば良いか分からず黙り込んでしまう。







『迎えに行くから、店で待ってて』







既読を付けてしまったそのメッセージに何て返信をすれば良いか分からない俺は、そのまま固まってしまう。

どうやら家の方向が俺と後輩が一緒のようで、俺と相乗りしていくのが1番効率的だ。

しかし、このメッセージ。





♩ー♩ー






「ぅおっ」
「やっぱ２軒目のお誘い？出てきなよ」






俺がいつまでも返事をしない事に痺れを切らしたのであろう。廊下に出て、恐る恐る携帯を耳に当てた。






「も、もしもし」
『ねえ、着いたんだけど』
「あ、うん…」
『早く出てきて。路駐してるから怒られる』
「はい…」




プツッ


……やばーい！！
もう逃げられなーい！！

ダーっと流れる冷や汗はきっと気のせいじゃないだろうし、まあいくら夜が冷え込むとはいえもう3月も半分を過ぎた。






「って、そんなことはどうでも良くて……！」

「何さっきから百面相してんの」
「？！聞いてたのかよ！」






薮の呼びかけに驚いて飛びのくと、薮の背後から後輩も首を傾げて覗き込んできた。








「で、どうすんの？」
「…あ、悪い。迎えが来てるから、タクシーは大丈夫」
「本当？じゃあ俺が乗せてくか」
「僕大丈夫ですよ！電車で帰ります」






後輩と薮の押し問答が始まった。

うぅ…ど、どうすれば…！






「……俺が、一緒に乗せてくから！」
「え、良いの？知り合いの人に悪くない？」
「ダイジョウブデス」
「何で片言なの」






こんな可愛い後輩を夜道に1人で帰らせた、なんてバレたらむしろもっと怒られそうだ。だったら後輩には見たこと聞いたこと一切口外しないと誓わせて、送って行った方がマシだ。







「良いんですか？」
「おう、良いよ」
「ありがとうございますっ」






満面の笑みでお礼を言われ、引きつった笑顔で返しながら、新たなメッセージを送った。






『ごめん、後輩も乗せて行って』

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