2人の短いお話 その6

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「じゃあねー、気をつけて！」
「おう、稽古頑張れよ」
「ご馳走様でした！明日もよろしくお願いします！」






薮がタクシーに乗り込むのを後輩と2人で見送った。

さて、と…

スマホを開くと、どうやら店の裏の方の路地にいるらしい。さっさと来い、と言わんばかりのスタンプが先ほどから怒涛に送られてきている。








「い、こうか」
「はい、ありがとうございます」
「あのさ、迎えに来た奴の事、誰にも言わないで欲しいっていうか、見ないで欲しいっていうか、もう空気として捉えて欲しいっていうか。」
「…はい？」







だー！違う違う。
こんなんじゃ、もっと怪しいだろ。

うん、そう。ただメンバーに会うだけ。
偶然都合がついて迎えに来てくれただけ。


……って、俺とアイツに限ってそんな訳ねえじゃーん！







「北山くん？」
「いや、そう。本当に何も見るな聞くな話すな。それだけ、」
「分かりました、頑張ります」







絶対俺変な奴だと思われてるんだろうな。

重い足取りで店の裏側へ向かうと、ハザードを焚いている車が停まっていた。

暗くて運転席に座る人物の顔はハッキリとは見えないけれど、幾度のなく乗ってきたので、アイツの車である事には違いない。






「後ろ、乗って」
「はい！ありがとうございます」





ガチャ







意を決して助手席の扉を開けると、いつもの良い匂いが鼻をかすめた。この匂いだけで分かる奴には分かるんじゃ…？







「ありがと…」
「ん」







顔をマスクですっぽり覆っているのと、下ろされている重めの前髪もあり目元だけが辛うじて出ている。

これじゃあ誰かバレないかも知れない。

後部座席を振り返ると、きょとん、とした様子の後輩と目が合った。





「あー、とりあえず家の方面向かうから、近付いてきたら詳しい道教えて」
「はい！ありがとうございます。宜しくお願いします」







チラ、とバックミラーで後輩の様子を確認しただけで、先程から一言も発しない運転手に行き先を伝えると、何も言わずにナビを操作してエンジンをかけた。

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