前世なんて知ったこっちゃない【山崎退】

何事もタイミング 山崎side ページ36

山崎side


聞くタイミング間違えたな。完全に気まずい空気になってしまった


はぐらかしたは良いが、目の前にいるこの人は何を考えているかは分からないが、立ったまま動かなくなってしまった。




「私は、今世ではあんま良い人じゃなくてさ。なんと言うか、そんな資格がない人が山崎と付き合って良いのかという、気持ち以前の問題って言うか」



暫く時間が経って、頭が再起動したのか口を噤み、何を思ったのかおちゃらけながらそう口にした。


その言葉で疑念が確信に変わったことがある。
前世とは全く異なる何かをこの人は体験したのだ。その何かがAさんの自己肯定感をここまで下げてしまっている。

思春期に起こるアイデンティティの低迷期とは違う。異質な何かが、この人の心を蝕んでいる。

何となくで察しはついてはいるが、これを確信に変えなければならない。

できればこの人の口から聞きたいが、今聞いたところで教えてくれる筈がない。
なので、この人が話したいと思う時まで待つ必要がある。そう頭では理解しているのだ。


「Aさん、俺は今回の人生であなたに何があって、どんな思いをしたかは分かりません。
なので、教えて欲しいです。」


あんなに苦しそうに笑うあなたを見たら、受け身になって待とうだとか思えなくなる。

まだ教えてくれないことは分かっている。
身勝手な欲望だ。俺じゃなくても良い、誰かに心を許してほしい。
そうしたら、少しは肩の荷がおりるだろうから



「別に良いけど、何が知りたいの」

「ですよね...え？」


ガードが硬いと思っていたが、きっかけを作ってみればあっさり崩されてしまった。
案外言ってみるもんだな。


「嫌じゃないですか？無理してません？」

「いやまぁ、気になるだろうなって思ってたし」


そう話すこの人を見て、ますます予想していた性格と異なっていて、この人のことが余計分からなくなりそうだ。

とりあえず気分が変わる前に聞けることは聞いておこうと思い、俺は2人分のお茶を注いで椅子に腰かけた。


それから、時間を忘れるくらい長い間。この人について知りたいことを質問した。

たまにAさんから来る質問にも答えながら、気がつくと夕方になる時間まで沢山会話を交わした。

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