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「全部聞いてたよ?」
「……海、」
やけに優しい声音で彼女達に話しかける海。
私に背中を向けているせいで、表情が見えないけどいつもの彼とは違う雰囲気を纏っている事は分かった。
「どうやったらそういう発想になるのか分からないけど、Aはそんな奴じゃないよ?」
「…………」
「これ以上酷い事言うなら俺許さないけど…どうする?」
いつもより低い彼の声を聞いて、何故か胸が騒ついた。
違う
これは、そうじゃない
目の前にある彼の広い背中を見ながら様子のおかしい自分の心臓を抑えていると、小さな声で「ごめんなさい…」と呟いた女子達が足早にそこから去って行った。
彼女達が見えなくなった所で私の方へ振り返る海。
「大丈夫か?」
「海…何でこんな所にいるの、」
「スタンドに人が残ってないか見て来いって言われてさ、」
「…そっか」
「声が聞こえたから来てみたらこんな事になってたから驚いたよ」
「ごめん、巻き込んで」
「何言ってんだよ」
「…………」
「気にすんな」
「………うん」
「…A?」
「……人に嫌われるのって怖いね」
「…………」
立っていられなくて思わず近くの椅子に座り込む。
今まで、こんなあからさまに人から敵意を向けられる事なんてなかった。
彼女達に言われた事は全て事実ではないけど、少なくとも彼女達には私はそういう風な人間に見えているということ。
どうしたらいいのか分からない。
「ごめん」
「…え?」
そう言って私の隣に腰をかける海。
どうして彼が謝るのだろうか。
「俺のせいだ」
「……違うよ」
「違くない」
何故か自分を責めるように苦しそうな顔をする海を見て、堪らない気持ちになる。
「………A」
「なに?」
「俺がちゃんと守るから」
違う
これは違う
「Aが悲しい思い、しないように」
だめだ、
この人に特別な感情を抱いてはダメだと、自分の頭の中でサイレンが鳴っているような気がした。
「何かあったら直ぐ俺に言えよ」
そう言って私の頭にポンポンと触れる海を見て私の中の何かが崩れる音がした。
高校二年の夏
私の長い片思いはここから始まった。
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作者名:京 | 作成日時:2019年2月24日 23時