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 夢に見る思い出ってもう少し美化されているものじゃないのか?
 いや、……うん……まあ、うん。いい思い出……では、ある。にしたってあんまりにも原寸大の恐怖だった。とくに前半部分。
 もう少し子どもの時分であればトラウマになるようなあの日の出来事を、けれど俺は、恐ろしいとは思いながら宝物のように抱き締めている。二十歳を越え、立派な丈夫となった今でも。

「あなたのようにできますか」と聞いた。
 それがきっかけだった。

 当時の俺は鬼殺隊に入ったばかりで……割りきることが今ほど上手くはなく、己の無力を突きつけられるばかりであった。
 そんな日々の中、あの人がどれほど輝いて見えただろう。

 ……思い出すだに体が震える。
 あの人の声、話し方。指先。足の運び方。光めいた白い肌。切っ先の鋭さによく似た、迷いのない眼差し。

 柱になって身に染みるこの忙しさの中で、あの人は、請われれば誰にでも稽古をつけていたのだな、と思う。その苦労や如何ばかりだっただろう。面倒だとは、思わなかったのだろうか。
 言葉こそ厳しいばかりだったけれど、それは確かに、俺たちの力になっていた。
 あれがいわゆる、愛だとか、期待だとかいうものだったのか。果たして今となっては確認のしようもないことだった。


「目覚められましたか?」

 背後から声がかかる。振り返らなかったのは、まさしく無害な女性の声に、妙に疲れた体では警戒しようとも考えなかったからだ。
 それは淑やかで、弱くも優しい、気遣いの声色である。

「ああ。今しがた」
「よかった。急にお倒れに……」
「そうか!すまない、心配をかけたな!」
「お加減はいかがですか?」
「大事ない!」

 ……フム、そういえばここはどこだ?

 眠る前の記憶が見事にないな。柱合会議で……うむ。覚えているのはそこまでだ。酒は飲んでいないはずだが。急に倒れた、というと……昨日は珍しくしっかり眠ったが。疲労が溜まっていたのやもしれぬ。
 しかし二つも夢を見たか。可笑しな話だ。
 四月一日殿が帰ってきて、それで、下働きなど。まったく馬鹿げている。俺はわずかに頭を振り、立ち上がった。

「良うございました」
「皆は?」
「座敷にいらっしゃいます」
「ああ、」

 細い指が掛かっていた羽織を俺の肩にかける。細やかな配慮だった。礼を言おうと、
「ありが」
 振り返れば、見紛うものか。

 四月一日A殿がそこに佇んでいた。

「?どうかなさいまし」
「ヒュ…………ッ」

 

食卓バイオハザード→←今は昔、



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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