8．夜が待ち遠しい ページ8
頭の奥底、核のような所からじんわりと熱が饐え広がるような感覚と共に、急に視界がコーヒーに落とされたミルクのように回転して景色が円状に混合する。
刹那、足がもつれて膝を着いた。
咄嗟に手を伸ばした棚は掴み所を誤って倒れた。
誰もいない家が故に助けなどはない。
日が経つにつれて薬は効かなくなった。
両親にもこのことは伝えられていない。
それは私の病状の悪化を示しているのだから、これ以上心配と負担を掛けたくなかった。
群青色の空に、銀色に輝く太陽の光が窓から差し込み、気持ちの良い風が部屋を巡回する。
次第に落ち着いた頃、私はようやく立ち上がった。
頭の熱も、目眩も何もかも嘘だったかのように消えている。
いつもの景色がそこにはあった。
「アズールなら何とかしてくれんのかな」
いつの日か、彼はそんなことを独り言のように零していた。
彼がよく口にしていた『アズール』とは誰なのか、医者が首を横に振ったこの体を一体どう出来るのか、なんて考えたりもしたが、実際に問うたことはない。
なぜならば、面倒事になりそうな野性的な直感が働いたからである。
私と彼の、海辺で会う関係はまだ続いている。
気分屋な自分の世界に遊泳するあの人にとっては珍しく、最近は毎日のように会いきてくれていた。
彼のいる夜が待ち遠しい。
空が暗くなるのを、今か今かと何度も窓の外へと目をやる。
澄んだ群青色が、何だか煩わしく思えた。
…こんな私を知ったら、彼は｢変なの｣と笑うのだろうか。
海辺で黄昏れるあの瞬間は、世界に私と彼しか存在しないような感覚がこそばゆくも、心地のいいものだった。
だが、楽しい時間はいつだってあっという間に終わる。
彼は何の気なしに私に手を振る。
明日さえも知らない体だが、必ず「また明日」と告げる。
また明日も会えますように、とちょっとした『おまじない』を込めて。
続く (更新停止中)
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鳴海 ひまり(プロフ) - 美月さん» ありがとうございます！短命で若くして命を落としている人って、心が綺麗な方が多いので言葉遣いや感受性も美しいものなのではないかと考えて、主人公目線は出来るだけ綺麗な言葉や表現を心がけて書いております。細かい所まで汲み取って頂けて嬉しい限りです(*^^*) (2020年11月10日 18時) (
レス) id: 72afd98018 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - させていただきました。ひとつひとつの言葉選びから情景描写まで何もかもが美しく、素敵な小説だと感じます。今後の展開がとても楽しみです。どうかご無理なさらず更新頑張ってください。連投失礼いたしました。 (2020年11月10日 4時) (レス) id: 48104f3cfe (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - 第2話より、『水面には月と無数の星が浮かんで……塗り替えた』という表現が深く心に刺さりまして、この感動をどう伝えていいのやら先程からうんうんと唸っております(;_;)とにかくとても素敵なフレーズでして、その文を読んだ瞬間に衝動的にお気に入りに追加 (2020年11月10日 4時) (レス) id: 48104f3cfe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：鳴海 ひまり | 作成日時：2020年11月10日 3時
